世界で8億人以上が利用しているとされるフェイスブック。日本国内でもユーザーが急増中のこうしたSNSを巡っては、手軽に利用できる反面、使い方によっては危険なツールになり得る。フリーライターの清水典之氏が報告する。
* * *
交流範囲をリアル社会の友達だけに限定しても、決して安心はできず、予期せぬ落とし穴にハマることがある。
フェイスブックを使い始めて誰もが一度は試すのが「中学や高校時代の同級生の探索」で、芋づる式に旧友とつながることがある。これはフェイスブックの醍醐味でもあるが、ときに昔付き合っていた彼女・彼氏や片思いだった相手ともつながったりする。“焼けぼっくいにナントカ”という状態を生みやすいのだ。
さらに、趣味や仕事を通じて異性との新たな出会いが生まれることもある。夫婦問題研究家の岡野あつこ氏は、フェイスブックをこう評する。
「趣味や価値観の合う人を見つけやすく、しかも自分のいいところだけを見せて演出することができる。だから、独身者にとっては強力な恋愛ツールとなりますが、既婚者にとっては浮気を誘発しやすい“危険な道具”になりえるのです」
2010年に全米婚姻関連弁護士会が米国内で行なった調査によると、弁護士会に属する81%の弁護士が「離婚訴訟でSNS上で交わされた会話などを証拠として挙げるケースが過去5年間で増加した」と答えている。
イギリスでも、離婚情報サイト「離婚オンライン」の調査によれば、2011年の離婚訴訟に提示された訴状5000通の内、33%にフェイスブックという単語が含まれていたという。
日本ではユーザーが急増したのがここ1年ほどなので、まだそこまで顕在化していないが、それでも「フェイスブック離婚」の例は出始めている。
岡野氏の元に持ち込まれた相談のなかには、40代の男女(既婚者)が共通の趣味で意気投合して一線を越えてしまい、お互いのパートナーを捨て、駆け落ちしてしまった例があるという。
また、大阪のある探偵事務所が手がけた案件の中には、次のような事例があった。
妻A子(27歳)は、「他人との付き合いがおっくうな性格の夫がなぜ、あんなにフェイスブックに熱心なのか」といぶかしく思い、夫(医師40歳)のPCを開きフェイスブックにログインしてみた(パスワードは誕生日だった)。
そこには女医B子(既婚、25歳)との間で交わされた「愛しているよ」「お互いに離婚して一緒になろう」といった言葉が綴られ、ツーショット写真もぞろぞろ出てきた。
探偵事務所ではアップされていた写真を解析ソフトにかけ、撮影されたデート場所を特定。会話の記録とともに、離婚訴訟の証拠として家庭裁判所に提出した。
このケースでは妻が夫のPCに不正にログインして資料を入手しているが、IT関連に詳しい落合洋司弁護士によれば、「妻の行為は不正アクセスとして刑事処罰の対象になる可能性が高いが、現在の法令・判例に照らすと、提出した証拠は採用されると思います」。
またスマホで撮った写真にはGPSの位置情報が付加されるし、写真やコメントを投稿すれば、その場所も記録される。調べれば行動は丸裸だ。
「一般に男性は脇が甘く、女性は勘が鋭い。投稿されたごく普通の写真でも、拡大表示すると『そばに誰かいる』『隣の人が肩に手を回している』といったことに女性はすぐ気付く。写真を順に眺めていけば、誰と誰が怪しいかだいたい分かります(笑)」(前出・岡野氏)
一番怖いのは相変わらず“女の勘”なのかもしれない。
※SAPIO2012年6月27日号