九州一の歓楽街として知られる福岡・中洲から福岡市役所職員の姿が消えてから約半月――。
度重なる飲酒時の不祥事に業を煮やした高島宗一郎・市長が、「5月21日から1か月間の自宅以外での禁酒」という前代未聞の“禁酒令”を出したことによるものだが、当初は職員から「人権問題だ」「隠れてでも飲むぞ」「中洲で飲んで地域経済に貢献すべきだ」という反発が起きた。
ところが、意外なことに「ほとんどの職員は仕方ないと従っている」(中堅職員)という。
中には、「市民から“酒臭い職員がいるぞ”などという通報があったりする」(同前)というが、同市広報戦略室は、「市長の“公務員の自覚と責任を再認識してほしい”という思いが伝わったのだと思います」と“ショック療法”の成果に胸を張る。
ただ、職員が素直に従ったのは、この「禁酒令」に“粋な配慮”が込められていたからだという。前出の中堅職員が明かす。
「7月1日から15日まで『博多祇園山笠』が行なわれるからです。市長も地元テレビ局のアナウンサー出身で、山笠についてはよく知っているから、そこに重ならないようにしたんでしょう」
700年以上の伝統を持つ山笠は、博多っ子にとっては特別な祭りだ。博多の総鎮守である櫛田神社に山笠と呼ばれる山車を奉納する祭りで、「山笠が終わると夏が来る」といわれる一大行事である。
「市職員の方も多く参加される山笠では、様々なところで御神酒が振る舞われます。山笠とお酒は切っても切れない関係です」(櫛田神社宮司)
そんな祭りの期間中に禁酒令が及んだりしたら……。
「暴動が起きるよ。神聖な祭りだけに、ただでさえ元々抑圧されているんだから」(地元商店主)
山笠は神聖な「男の祭り」とされ、いくつかのタブーがある。生理が不浄なものとされるため女人禁制、期間中のセックスも御法度だ。性欲が抑圧されている中で、酒まで禁止されようものなら、「男たちが暴徒化してしまう」というのもあながち冗談では済まないかもしれない。
職員たちは「山笠までの我慢」と酒の欲求に耐える日々。もっとも、たまりにたまった欲求がはじけると、今年の山笠では逆に職員の飲酒不祥事が急増しないか心配にもなる。
※週刊ポスト2012年6月15日号