年収数千万円とされるお笑いコンビ次長課長・河本準一(37)と、キングコング・梶原雄太(31)の「母の生活保護受給問題」。この騒動を受けて、国は扶養義務の強化に言及し始めた。果たして子供はどこまで親の面倒を見るべきなのだろうか?
世界を見渡しても、国によって扶養義務に対する考え方はかなり違う。国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩さんによれば、なかでも日本の制度は特異な例だという。
「親が子供に対して扶養義務を負うのは各国に共通していますが、子供が親に対して扶養義務を負う国は少数派だといえます。とくに日本のように、家族に扶養照会がいくというのは、先進国ではかなり珍しいケースです」
例えばアメリカやイギリスでは、扶養義務は夫婦間(事実婚含む)と子供に対してのみ発生する。ドイツでは親と子供には互いに扶養義務があるとしているが、きょうだいは扶養の対象外だ。
こうした現状を踏まえて、阿部さんはこういう。
「家族のなかで助け合うのは素晴らしいことですし、日本の社会の美徳です。しかし、それを国から強制されるのはどうかと思うんです」
千葉大学地球環境福祉研究センター長の小林正弥教授も、生活保護の扶養義務については、制度や政策の前にまず「モラルの問題として議論してほしい」と話す。
「生活保護を個人の権利のように考えると、親に対する扶養義務が無視され、生活保護を受ける人が激増して、財政的な問題が生じます。その結果、河本さんのような問題が起こると“厳格に運用すべし”という議論が出てくる」
小林さんによれば、いまの日本の生活保護制度は「コミュニタリズム」に基づいているという。いろいろなコミュニティーがあり、家族の上に自治体があり、国家がある。まずは家族というコミュニティーで扶養しましょう。それが無理なら自治体と国家が面倒を見ましょうというシステムだ。
「このシステムの中に、“もらえるものはもらっておこう”という自己中心的な考え方がはいってきてしまうと、制度自体が破綻して、本当に困っている人がもらえなくなって悲惨な状況になる。この制度を支えるのは人々のモラルなので、そのことを多くの人に自覚してほしいと思います」(小林さん)
※女性セブン2012年6月21日号