野田佳彦・首相は「4年間は消費税を上げない」というマニフェスト(政権公約)の遵守を主張する小沢一郎・元代表とは妥協しないというサインを自民党に送り、「増税に賛成してほしいなら小沢を切れ」と訳のわからない論理を展開してきた自民党にすり寄った。
民主党のマニフェストは、ひと言でいえば、「総予算を組み替えて行政の無駄を省き、増税なしで社会保障改革を実行する」という考え方だ。その原点に戻り、増税の前に改革を進める努力をもっとすべきという小沢氏の主張のどこが暴論なのだろうか。国民は「マニフェストより、まず増税を」などと望んではいない。
民自増税談合の目的をはっきり示すのが、自民党が内閣改造当日に国会に提出した『国土強靱化基本法案』である。これは、毎年20兆円、10年間で総額200兆円の巨額の公共事業費をつぎ込んで全国的なインフラ整備を行なう内容だ。
国の公共事業費は現在約6.2兆円(2011年度)、毎年20兆円というのはその上に消費税増税による増収分約13.5兆円を丸ごと公共事業にぶち込もうというものだ。野田政権の「増税はすべて社会保障にあてる」(岡田克也・副総理)という説明とも、大メディアの「財政再建のために増税が必要」という増税容認論とも違う。
自民党は増税で公共事業をバラ撒く古い政治を復活させようとしているわけだが、野田首相や岡田副総理、仙谷由人・民主党政調会長代行らはそれを百も承知で大連立を目論み、大新聞は批判せずに増税も大連立も容認している。
どうも大メディアの主眼は「小沢排除」にあるようだ。2回目の小沢・野田会談後のぶら下がり会見で、記者たちは小沢氏に、「民主党と袂を分かって政治行動する選択肢もあるのか」と質問を浴びせ、離党の言質を取ろうとした。小沢氏の答えは、なかなか意味深長である。
「そんなことは考えておりません。私自身が先頭に立って、国民みなさまに訴えて、そして任された政権ですから」
今の政権が、国民に訴えたマニフェストを守らない、つまり負託を受けた姿ではない、そして自らの勢力こそが真に「新政権」たる資格がある――そういう強い自負が伝わってくるが、そこを読み取った新聞記者は皆無だった。
※週刊ポスト2012年6月22日号