野田佳彦首相が内閣改造に踏み切った。首相が閣僚全員にいったん辞表提出を求めたうえで、あらためて閣僚を任命する「内閣改造」は首相の求心力を高める究極の手法である。今回の改造人事で注目を集めた防衛相への民間人起用について東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が解説する。
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改造人事の注目点は、防衛相への森本敏拓殖大学大学院教授の起用である。麻生太郎政権で防衛相補佐官を務めた森本は親米・現実路線で、もともと自民党に近い。そんな森本をなぜ起用したのか。
野田は単に安保防衛政策でも自民党に近いサインを送ったほうが増税に得策と考えただけかもしれない。そのあたりを東京新聞は「消費増税への再改造」「自民への配慮ばかり」、日本経済新聞も「消費税協議にらむ」「自民と協調へ守りの布陣」(ともに6月4日付夕刊)と指摘している。
私はもう少し大胆に、今回の森本起用は野田政権が自民党化した象徴とみる。与野党には「民主党に防衛相の適材がいなかった」という声が上がった。消極的に言えばそうかもしれない。だが、積極的に言えば「安保防衛政策は自民がやっても民主がやっても同じ」という認識になってきたのではないか。森本起用には、そういう気分が表れているように思える。
そうだとすると、いまや増税問題だけでなく安保防衛政策でも民主党は事実上、分裂している。
鳩山由紀夫政権は中国への親近感を強調して東アジア共同体構想を掲げた。小沢一郎元代表は日米中3国が等距離の正三角形論を唱えていた。今回の野田人事は、あきらかに2人の路線とは異なる。
野田政権が消費税引き上げに加えて安保防衛政策でも自民党と違わないとなると、行き着く先は自民党との連立だ。自民党内には「民主党とは絶対組まない」という勢力もいる。だが、野田が二股作戦をあきらめて、本気でラブコールするとなると、自民党にもクラっとくる向きが出てくる可能性がある。(文中敬称略)
※週刊ポスト2012年6月22日号