まさかこんなことになるとは当の社員たちも10年前には露ほども思わなかったのではないか。去る5月29日、パナソニックが、本社の従業員約7000名のうち3000~4000人もの人員を削減するよう調整を開始していると報道され、社の内外に大きな衝撃が走った。
パナソニックは2012年3月期に国内製造業の赤字としては過去最大の7721億円という連結最終赤字を計上していた。この非常事態に際し、これまで生産現場で大規模なリストラが行なわれても「聖域」として対象外だった本社部門にも、容赦のないメスが入ることになったのである。
経済ジャーナリストの福田俊之氏が説明する。
「巨額赤字が発表されたのが2月3日で、社員はその数字に恐怖感を覚え、『リストラがあるぞ』と覚悟したはず。続いて2月末に社長交代人事(6月末に大坪文雄現社長が退任し、津賀一宏常務が新社長に昇格する)が発表され、リストラの予感はより強まっていた。このタイミングでの発表はリストラの心理的なテクニックの一つ。逆に言えば、大赤字の衝撃が残っているうちに、会社はリストラを計画的に進めたいのだと思います」
では、本社のどういう部門が削減の対象になるのだろうか。福田氏はおもに次の3つを挙げる。
ひとつは、この4月に大阪の本社からシンガポールに本部を移した調達・物流の部門。
2つ目は合併によって人員がタブついている部門。典型的なのが、三洋電機と合併したことで多くの人員が重複している環境・エネルギーの部門だ。
「三洋出身者にも優秀な人材は多いし、パナソニック生え抜きにもプライドがある。どちらが残り、どちらが出るかで、激しいつば競り合いが起こるでしょう」(前出・福田氏)
3つ目は、当然のことながら赤字部門。巨額赤字の主たる原因となったテレビ部門が典型的だ。
しかし、7000人のうち半分前後を削減するとなると、最終的には全ての部門がリストラの対象とならざるを得ないという。
削減の方法は「退職勧奨」子会社、関連会社への「転籍」「出向」の3つと見られている。企業の人事問題に詳しいジャーナリスト・溝上憲文氏が解説する。
「パナソニックは本社機能をグローバルに統括する精鋭部隊だけに絞ろうとしている。当然、人事・財務・経理といった間接部門の社員にも海外での仕事が求められる。まずは『退職勧奨』で希望退職を募り、残りは海外勤務に難色を示す社員や、語学力のない社員から順に『転籍』『出向』という形で国内の子会社に出されることになるでしょう」
※週刊ポスト2012年6月22日号