今年、酒類メーカーは相次いで主力商品のビールへのテコ入れを実行している。アサヒビールは新商品「ドライブラック」を発売し、キリンビールは「一番搾り」を氷点下で味わう「フローズン〈生〉」を打ち出した。そんな中、最も大胆な策に打って出たのがサントリーの「ザ・プレミアム・モルツ(以下、プレモル)」だ。3月13日に看板商品のパッケージと味を刷新。その裏側に何があったのか。ジャーナリストの片山修氏が解説する。
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近年、国内ビール市場は縮小の一途をたどっている。背景には、少子高齢化に加えて、若年層の飲酒離れがある。飲酒人口はもとより、一人あたりの飲酒量も減っているのだ。
さらに、東日本大震災後の消費の冷え込みも深刻だ。とりわけ嗜好品は、過剰な「自粛ムード」の直撃を受けた。2011年のビール類市場は、前年比97%で、7年連続過去最低を記録した。
起死回生を目指して、大手酒類メーカーは2012年、こぞってビール事業の梃子入れに乗り出した。父の日やお中元、夏場の本格シーズンを前に、ビール市場は早くも激戦の様相を呈している。
中でも注目すべきは、サントリーだ。3月、看板商品「プレモル」の味とパッケージを刷新し、市場拡大に挑む。興味深いのは、「プレモル」が発売以来、8年連続の過去最高販売数量を更新し続ける優良商品である点だ。
「変える」のは、大きなリスクを伴う決断である。アサヒビールが今年「ドライブラック」を発売したが、これは「スーパードライ」が誕生して25年目にして初めての派生商品。それほど看板商品に手を入れる決断は簡単ではないのだ。
そもそも「プレモル」は、赤字の続くサントリーのビール事業のなかで、長い歳月と莫大な投資を注ぎ込んで開発された。前身の「モルツ・スーパープレミアム」は、1989年以来、10年以上の限定販売を経て全国販売をスタートしたが、低空飛行が続いた。
ところが、2003年に「ザ・プレミアム・モルツ」となり、2005年にモンドセレクションビール部門で日本勢初の「最高金賞」を受賞するや、その後、2007年まで3年連続で同賞を受賞し、一気にブレイクした。
デフレ下で各業界が安売り競争に走る中、普通のビールより30~40円程度割高な「プレモル」は伸び続けた。結果、サントリーは2008年、1963年にビール事業に参入して以来46年目にして初の黒字化を果たし、業界3位に浮上した。
「プレモル」を「変える」ことは、この成功ストーリーを手放すリスクをとることを意味する。実際、味を変えれば、「最高金賞」の“勲章”を掲げることができなくなる。長年支えてくれたファンを裏切る結果にもなりかねない。
しかし、サントリー酒類代表取締役社長の相場康則氏は、次のように自信を見せるのだ。
「うちの会社は、守りに入るのが嫌いです。『プレモル』は、順調だからこそ変えるんですよ。販売数が落ちてから刷新するのでは、遅いんです。お客さんの嗜好は変化します。『最高金賞』が呪縛になって、お客さんの嗜好が変わっているのに『プレモル』の味を変えられないというのが、いちばんまずい。商品には、常に刷新が必要なんです」
※SAPIO2012年6月27日号