現在、漫画家・作家として活躍するさかもと未明氏は、これまで夜の仕事も含めて様々な仕事に従事してきた。その内のひとつがグラビアモデル。新刊『女子のお値段』(小学館)の中で、さかもと氏は当時のことをこう振り返っている。
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私はちょっと特殊なお仕事をしてきたと思います。グラビアモデルはその一つです。
最初にモデルの話がきたのが27歳のとき。当時はヘアヌードブームで、写真集がたいへんな活況でした。「レディコミで面白い子がいるから話題になるのでは」と、私のところに話がきたのだと思います。海外ロケな上に有名なカメラマンさんが撮ってくださると聞いて、私の心は揺れました。しかもギャラは200万近いと言われたのです。
「人生一度きりだし、やってみたいなぁ」
私はもともと絵描きです。ヌードが恥ずかしいとかいけないという感覚はなかったのですが、一応と思って親と当時の彼に相談しました。そうしたら怒られたのなんの!
親からは「お前のヌードなんか誰が見る」「汚らしい」「そんなことをして、妹弟が結婚できなくなったらどうする」とか、そこまで言わなくてもいいじゃないですか、というくらい攻撃されてしまいました。彼には「脱ぐなら俺、会社やめるし結婚しない」と言われました。
私は本当に悩んでしまいました。「会社やめなくちゃいけなかったり、結婚できなくなるくらい悪いこと? じゃあ世に喜びを提供している他のモデルさん達はそんなに悪い人なの? みんなヌードを見るじゃないですか。何で私がやったらいけないの?」
私は混乱しました。自分は表現をするのが仕事だし、やってもいいと思い続けましたが、彼が会社をやめるのなんのというのがどうしても気になり、ヌード写真集は出しませんでした。でも彼とはそのまま結婚することができず、婚約破棄をしました。
「脱ぐなら結婚できない」と言われたことが、どうしても受け入れられなかったのです。私は、結婚するということは、お互いのすべてを受け入れることだと思っていました。私の中に彼が許せない種類の表現への欲求がある以上、そういう気持ちを抑えたまま、妻に収まることはできなかったんです。
彼の気持ちも今はわかります。私を大切に思うからこそ、漫画まではいいけど、写真で体をさらしてほしくなかったのでしょう。私の体を彼だけのものにしておきたかったんだと思います。それはまさに理屈にならない、男性の根源的な思いです。それがあるから男の人は女性のために必死で働くし、いざというときには戦ってくれます。
「女性を守る」という、男性の根源的な使命の部分から、私は抜け出してしまったんですね。そういうことを理解できる男性もいるのでしょうが、当時の彼が理解してくれなかったといって、責めることはできません。
ただ、そういうふうに行動を規制されることが、私には苦しいことでした。結婚したとき漫画をやめてと言われて苦しんだのと一緒でした。またしても私は当たり前の「素人のルール」を踏み越えてしまったんです。
当時の私は「どんな表現をしようとも、別の人と付き合うとかじゃないし、浮気でも何でもないのに。私を理解して受けとめてくれたら、それこそ一生つくせるのに」という思いでいました。今思うと勝手な理屈かもしれません。でも当時の私は表現の欲求を抑えられませんでした。そんな私を恋人の男性にわかってほしかったんです――。
※さかもと未明/著『女子のお値段』より