ギリシャがEUとユーロそのものを危機に陥れている。EU各国は財政危機が深刻なこの国の救済に必死だが、当のギリシャ国内ではその救済プランとセットになる緊縮財政策への反発が強い。いったいこの国の本質とは何なのか。落合信彦氏が解説する。
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ヨーロッパで、世紀をまたいだ「巨大な実験」が失敗する可能性がでてきた。ギリシャの深刻な財政危機によって、統一通貨であるユーロや、EUの存在そのものが危機に晒されているのだ。
最初に簡単に危機の概要を説明しておこう。
財政危機に陥ったギリシャが無秩序なデフォルト(債務不履行)をすることになれば、その国債を山のように保有するドイツやフランスの金融機関は巨額の損失を被ることになる。だからこそ、EU各国は救済に必死なわけだが、当のギリシャ国内ではその救済プランとセットになる緊縮財政策への反発が強い。
ギリシャ政治は大混乱に陥っており、5月の総選挙では救済プランを受け入れようとする与党が敗北したものの、その後の連立協議が不調に終わり、6月17日に再選挙が行なわれる。その再選挙の結果を、世界が固唾を呑んで見守っているというわけだ。
さて、こうした経緯の中で日本の報道では、ギリシャの好き勝手な振る舞いに、EUが、そして世界が振り回されているという印象ばかり与えられる。
だが、それは物事の一側面に過ぎない。今回は、現在起きている事態の「本当の原因」について探っていきたい。
確かに、ギリシャという国がとんでもない腐りきった国家であるという指摘は、事実ではある。1974年に軍事独裁政権が崩壊して以降、政治家はポピュリズムに走り、身の丈を超える公務員の厚遇や財政支出を繰り返した。さらに、“脱税文化”が蔓延(はびこ)っていて、地下経済の規模はGDPの30%以上とも言われている。
私は、危機が表面化する直前の2009年秋に取材でギリシャを訪れたが、アテネの高級住宅地の上空を数機のヘリコプターが飛んでいた。現地の事情通に、「何のために飛んでいるのか?」と尋ねると、「空から“プール付きの豪邸”の写真を撮って、それを証拠に課税をしようとしているんだ」と説明してくれた。
通常の徴税システムが全く機能していないことを示している。
当時から私は警告を発してきたが、ギリシャのような“劣等生”はEUの一員にすべきではなかった。その後に明らかになったように、ギリシャはユーロ導入のためにEUが課している条件(年間の財政赤字はGDPの3%以内)に近づいているかのように見せる“偽飾決算”を繰り返していた。
実際は、基準を遥かに超えるGDPの13%以上の財政赤字を毎年計上していた。にもかかわらず、アメリカの投資銀行ゴールドマン・サックスの助けを借りて偽装決算をEUに提出し、ユーロ圏参加をパスした。もちろんゴールドマン・サックスには相当な謝礼が入ったとされている。
それ以後、フランスやドイツの金融機関に多額の国債を買わせていたのだから、言語道断の詐欺行為である。ただし、繰り返すが、これは今起きている事態の一つの側面でしかない。
※SAPIO2012年6月27日号