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取材現場の可視化で記者にも質問力、責任・覚悟が問われる

 橋下徹・大阪市長の定例記者会見は市のHPで生中継されている。一切の加工をせずに流すのは橋下氏の方針だが、こういったネットでの公開が記者を変えると、ジャーナリストの上杉隆氏は指摘する。

 * * *
 記者会見という取材現場を可視化する「ダダ漏れ」スタイルが、メディア側の“駄目さ加減”を白日の下に晒しているのは、橋下氏の記者会見に限った話ではない。

 例えば、近年で言えば、小沢一郎氏の記者会見が典型的だ。反小沢のメディアほど「政治とカネの問題についてどう考えているのか」などと抽象的な質問をすることが多く、小沢氏が具体的に答えざるを得ないような質問の仕方をしていない。

「説明責任を果たしていない」と小沢氏を非難するが、自分たちに小沢氏の“痛い所”を引き出す質問力がないことは棚上げしている。これに限らず、自分の主張を述べているだけで、質問の形になっていないこともある。問題を追及するどころか、逆に隠蔽に手を貸すようなことすらある。

 例えば、去年3月、福島第一原発の事故が起こり、東京電力の記者会見において自由報道協会所属のフリージャーナリスト、木野龍逸氏、日隅一雄氏、筆者らが繰り返し海洋汚染の可能性について追及していた時、大手新聞の記者はそれを遮るかのように「お前たちの会見じゃない」と野次を飛ばしたのである。

 だが、こうした“駄目質問”や悪質な野次も、ネット上にアップされた映像で確認することができるようになった。

 従来、恣意的な編集にせよ、無知、無理解、不勉強にせよ、権力側との馴れ合いにせよ、メディアの欺瞞が表に出ることはなかった。記者クラブ制度が強固に機能していたからである。雑誌、ネット、外国メディア、フリージャーナリストといった異分子を記者会見の場から締め出し、記者クラブ所属の内輪だけで“情報カルテル”を結んでいたので、自分たちに都合の悪い事実は互いに隠蔽し合うことが可能だったのだ。つまり、取材現場のブラックボックス化は、記者クラブ制度と表裏一体のものだったのである。

 ところが、政権交代が起こった2009年の秋以降、記者会見のオープン化が徐々に進み、会見に参加し始めた非記者クラブのメディアやフリージャーナリストが、まずはツイッターなどを使って文字による事実上の生中継を、やがて映像の生中継とそのアーカイブ化を始めた。

 また、記者クラブ制度が強固だった時には、記者会見でどこのメディアの、何という記者が、どういう質問をしたかは、一般の人には全く見えなかった。

 だが、オープン化が進み、「ダダ漏れ」スタイルが定着するにつれ、記者がそうした匿名性に安住することは不可能になった。以前は、官庁のHPに掲載される会見録でもメディアの質問者の名前部分は「――」と表記されて匿名になっていたが、フリージャーナリストの岩上安身氏らの強い要請により、今では実名が表記されるようになっている。

 この変化が持つ意味は大きい。質問をする記者にも、質問力と、責任・覚悟が問われるようになったからだ。実は橋下氏はそのことを十分意識している。それを物語っているのが、ツイッターでの次のような発言だ。

〈「私が質問しているのだから私の質問に答えよ。私が答える必要はない。」こんな取材姿勢が通るはずがない〉〈記者会見や囲み取材の場に来て、議論する覚悟がないなら来るべきではない〉〈記者の認識に誤りがあったり、見解に合理性がなかったりすれば、当然僕から質すこともある〉……。

 記者クラブに所属してはいても、現場の記者は、実はこうした大きな変化に気付き、危機感を抱いていることが多い。気付いていない、あるいは気付いてはいてもその現実の変化を直視できないで抵抗しているのは、長年記者クラブ制度のもとで育ち、それを守って出世を果たしてきた幹部たちなのだ。

※SAPIO2012年6月27日号

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