東芝が国産初の扇風機を商品化して118年。今もなおその最前線に立ち、攻め続ける姿勢を見せている。しかし、そこには新風が静かに、そして確実に吹き始めていた。東芝ホームテクノの扇風機『SIENT+』の開発現場に迫る。(文中敬称略)
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扇風機は明治27年(1894年)に東芝の前身・芝浦製作所が国産第一号を生産した並み居る家電製品の中で100年以上の歴史ある製品。エアコンの普及で、21世紀に入ってからは、3000~5000円の製品が量販店で幅をきかせるコモディティ製品になっていた。
大手の中では撤退するメーカーもあったなか、東芝では、扇風機に携わるほとんどの人間が歴史の重みを背負って奮闘し、会社側も力を注いでいた。
扇風機は、その涼風によって体感温度を2~3度下げることは可能だが、いくら性能を上げても気温を下げることができない。
お客様にとって価値ある扇風機とは何か――。東芝ホームテクノの家電事業統括部販売企画・担当課長代理の辻村周一(50)らは、「エアコンと併用することによって省エネ、節電につなげる」というコンセプトを打ち出し、矢継ぎ早に企画を提案していく。
辻村らが新たに投入した機能は、夜間に充電した電気で日中扇風機を運転するというもの。つまりバッテリー付きの扇風機だ。
充電バッテリーを搭載すれば、価格は上がるかもしれない。停電なんかそんなに起こらないという声も多かった。
だが、ゴーサインが出た。
「エコスタイル」を標榜する会社の方針に沿っていると受け止められたのだ。完成した扇風機「サイエント+」は7枚羽根が採用されている。長年4枚羽根にこだわっていた東芝の大転換だった。
その一枚一枚には、「洗練されたデザイン」「心地よい風」「広がる風」「省エネルギー性能」「卓越した技術」「使いやすさ」「安心感」の7つの思いが込められている。
今年4月末、約4万円と、扇風機としては高価な製品が発売された。1万円未満の売れ筋の扇風機とは明らかに違う優しく涼やかな風や、辻村らが思いを込めた機能が消費者に受け入れられた。夏本番を前にして一時、生産が間に合わない売れ行きを示したのだ。
「我が社の本社は米どころ新潟県加茂市。米作りはなによりも土壌作りが重要です。良質の土壌を作らない限り、価値ある創造などできません」(辻村氏)
※週刊ポスト2012年6月22日号