竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「近所のペット霊園が放つ火葬炉の煙や悪臭に困っています」と以下のような質問が寄せられた。
【質問】
近所にペットの霊園があります。死んだペットを弔うのはいいのですが、火葬にする場合の火葬炉の煙や悪臭が近所の住民に迷惑を与えているのが困ります。霊園そのものの移転はともかくとして、火葬炉の使用を止めさせたいのですが、ペットの霊園問題について参考事例などあれば教えてください。
【回答】
直接、ペット霊園を規制する法律はありません。人間の火葬場や霊園は、墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)で都道府県知事の許可が必要です。ペット霊園は火葬場を伴い、焼骨をロッカーや墓地に納める形態のものが普通ですが、墓埋法は適用されません。
廃棄物処理法第2条1項には、動物の死体が役に立たないものとして廃棄物の一つに挙げられており、犬や猫の死骸は一般廃棄物として市町村が引き取って焼却処分します。しかし、飼い主が愛情を注いだペットの死を悼み、ペット霊園で焼却し、骨を保管してもらうペットの死体は、廃棄物には当たらないと解されています。従って、廃棄物処理業者でなくても経営できます。
勿論、施設を設ける以上、都市計画法や建築基準法等の行政法規の制約を受けます。また現実には、市街地などで動物を焼却すると異臭などの公害問題が起きることから、条例でペット霊園を許可制にする市町村もあり、許可の過程で近隣住民への説明会開催や協議を義務付けています。
こうした条例がある地方では、役所への働きかけも重要です。ですが、違反しても、指導に従わない業者名を公表して、世間の非難にさらすという制裁を加えるまでが限界です。
しかし、火葬場からの悪臭等が酷く、日常的に長時間継続する場合、受忍限度を超えた人格権侵害の不法行為になり、裁判で救済を求められます。実際に都内のペット霊園が新設した火葬炉について、強烈な刺激臭が出たとして、操業停止を命じた裁判例もあります。
この事件は、設置前に住民が被害を予想して建築禁止の仮処分をとったのに業者が操業を継続し、悪臭被害が実証された事件でした。計画を察知したら、早期に臭気問題に詳しい専門家に依頼して被害を想定し、弁護士に仮処分等の対処を相談するのがよいでしょう。
※週刊ポスト2012年6月29日号