民主、自民、公明3党が増税路線に突っ走ろうとしているが、「消費増税で国を再生しようとは無能経営のお手本だ」というのは渡邉美樹・ワタミ会長だ。
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いま消費増税をやるべきではないという結論だけを取れば、小沢氏らと同じ意見といえますが、私の目には、政局的な観点から反対を唱えている政治家が多いと映っています。
現在の日本は、企業でいえば経営破綻寸前です。傾いた経営を立て直すため、まともな経営者であれば3つのことを考えます。
第1に支出カットです。役員の給与や定数を減らし、さらにすべての経費を見直す。国に照らせば、議員歳費と定数の削減、公務員の人件費を含めた支出の総見直しです。民主党政権はこれをほとんど実行せず、逆のことをやっています。
消費税を10%に上げると12兆円の税収を見込めるといいますが、これでは、民主党政権で歳出が増えた分が帳消しになる程度です。
第2の策は収入アップです。収入を増やすためには売上を上げなければいけません。政府は消費増税で歳入を増やすというが、会社の売上に当たるGDP(国内総生産)そのものを増やしていかなければ、税率を上げても税収は増えないことは基本中の基本です。
いまの民主党政権は、会社でいえば原価率を下げて、粗利益だけを上げようとしているようなものです。これは無能な経営者がやりがちなことですが、原価率を下げて商品の魅力を落とせば、結果的にお客さんは逃げていって利益は下がる。増税で景気が悪化するのも同じで、なぜそんな単純なことがわからないのか。
第3にコストカット、売上アップの先にある会社(国)のグランドデザインを示すことです。お客さん(国民)や社員が幸せになれるという将来像がなければ改革は実を結ばない。
私はスウェーデンのような高福祉・高負担国家こそ、国民を幸せにすると考えます。「働かずに生活保障をもらおう」という考え方が多ければ成り立たず、高い勤労意欲とモラル、国に対する絶対的な信頼が必要です。スウェーデンでは小学校1年から中学3年まで徹底して「働くことは尊い」と教育されているように、国全体でグランドデザインを共有することが肝心です。
正直、いまの日本がどういう道を目指しているのかよくわからない。“安心な国民生活をどう確保するか”といった戦略や全体像を政府が提示しないため、国民は不安ばかりが募り、1500兆円の個人金融資産を握って離さない状況です。だから景気がいつまで経っても好転しないのです。
※週刊ポスト2012年6月29日号