6月10日に大阪・東心斎橋で通り魔事件を起こし、2人を殺害して逮捕された礒飛京三容疑者(36)。臨床心理士の矢幡洋氏によれば反社会性の人格障害(パーソナリティ障害)の傾向が見受けられるという。
一方で、通り魔のような事件が起きて、犯人の精神疾患が取り沙汰されると、まったく関係のない患者たちが差別や偏見にさらされてしまうという問題がある。元警視庁科学捜査研究所の研究員で、現在は法政大学で教鞭をとる越智啓太教授の解説。
「たとえばうつ病患者に自殺願望を持つ人は少なくないが、他人を巻き込むということになると、最も多いのが一家心中。もちろんそれも悲惨な事例ですが、自分の欲望や利益のために殺人をするといった自己中心的な行動に出ることはほとんどありません」
さらに、精神科医の片田珠美氏は心の病と犯罪について、こんな言い方をした。
「精神科などのクリニックに通院している人は、周囲も本人も病気であるという認識を持っていることが多く、薬物・精神療法で病状をコントロールしていますし、重い統合失調症等で日常生活を送るのが難しいと判断された患者さんは長期の入院生活を余儀なくされる。無差別大量殺人のような特殊な犯罪を精神疾患だけで説明しようとするのは無理なんです。犯罪は様々な要因が重なり合って起こるもので、心の病気だけで犯罪が引き起こされるわけではないということをわかってほしい」
2011年度の『障害者白書』によれば、知的障害者と精神障害者の数は約378万人で、日本の総人口に占める割合は3%弱である。障害の程度によって1級から3級まである精神障害者保健手帳を保持しているのは59万4504人(2010年)である。
一方で、同年度版の『犯罪白書』の数字をひこう。検挙された一般刑法犯にしめる精神障害者の比率は0.9%しかない。
この数字の比較を見ても、“精神障害者が罪を犯しやすい”というのは迷信でしかないのがわかる。それでも偏見が横行するのは、有名な事件で伝えられた精神疾患のイメージが脳裏に根強く残ってしまうこと、殺人事件の逮捕者に占める割合が10%前後あることが作用しているのだろう。
2001年には浅草でレッサーパンダの帽子をかぶった男(当時29)が、偶然視線が合った19歳の女性を刺殺する殺人事件が起きた。男が自閉症で軽度の知的障害者だったことが話題となった。
2008年の八王子通り魔事件でも犯人の精神遅滞と量刑との連関(一審無期懲役から二審で懲役30年に)が議論を呼んだ。
が、精神疾患に詳しい関係者たちは一様に「知的障害者がたまたま加害者となったケースがセンセーショナルに取り上げられ、あたかも病気が危ないかのような誤ったイメージが流布してしまっただけだ。健常者と比較して事件を起こしやすいとは決していえない」と声を揃える。
※週刊ポスト2012年6月29日号