昨年8月に、1900ドル(1トロイオンス=約31.1035グラム当たり)の大台を突破した金価格(ニューヨーク先物)だが、5月には1500ドル台まで下落、その後は1600ドル台で推移している。欧米の経済が不透明感を増す中で、今後の金価格はどうなるのか。金のスペシャリスト、スタンダードバンク東京支店支店長、池水雄一氏が解説する。
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昨年後半からの1600~1700ドルのレンジ相場の下値は5月に破られたが、上値はどうだろうか。現状では1700ドルを上に抜けていくのは簡単ではないと考える。上値が1670ドルを超えてくると、下値付近で実需の買いに入った投資家による利益確定の売りが出てくると思われるからだ。相場が少し強気になったことで、今度はファンドが買いに入るものの、実需買いの投資家の利食いによって、価格の上昇は抑えられてしまうだろう。
実需の現物を多く扱う私の立場から単純にみると、ファンドは安値で売って、高値で買い、その動きに乗じて実需筋が儲けている構図が目に映る。そういう実需筋の金現物に絡んだ動きなどを考慮しても、1700ドルの上値を抜けていくきっかけは今のところ見つからない。
それでは、今後、金価格が上に向かって大きく動く時の要因となるのはなにか。それはやはり、外部要因である金融緩和だろう。昨年から今春までの米連邦準備理事会(FRB)/米連邦公開市場委員会(FOMC)による相場の動きをみても、金相場は“金融緩和相場”の様相を呈している。
「QE3(量的金融緩和第3弾)」の発動が決まれば、昨年から3回トライしても届かなかった1800ドルのラインを超えていく可能性が出てくる。1800ドルを抜ければ、1900ドル台も視野に入ってくるだろう。
ところで、アジアで金現物の引き合いが強まっている中、日本は産金国でもないのに、昨年は100トン以上、金を輸出している。背景には、1980年代~90年代に金を大量に買っていた日本の投資家たちが利益確定売りに動いていることなどがある。
日本は特殊なマーケットで、金の売りのほうが圧倒的に多い現在だが、ドル安円高が続いていることは、日本人にとって金を購入する上でラッキーな状況といえる。特に20代~40代の世代には、今の日本経済の危うさと将来を考え、ヘッジの1つの手段として金を保有しておくよい機会ではないだろうか。金現物を購入する際は、バーでもコインでも、サイズが小さくなるほど手数料が割高になることに留意したい。
※マネーポスト2012年夏号