【書評】『異貌の人びと 日常に隠された被差別をめぐる』(上原善広著/河出書房新社/1860円・税込)
* * *
路地(被差別部落)の出身であることを公言している著者が、海外の被差別民と出会い、その境遇や生活を記したルポの短編集だ。
登場するのは、スペインの「カゴ」やパレスチナ人、イラクの「ロマ」、サハリンの「ニブフ」「ウィルタ」など「少数民族」がほとんどだ。その中で、同じ民族の中に存在する被差別民という意味で、比較的日本に近い例と言えるのは、ネパールの「バディ」である。
ネパールには今もカースト制度が残り、熱帯雨林の奥地に住むバディは「売春カースト」である。少女たちは学校にも行けず10代前半から数百円で春を売り、男たちは太鼓などの楽器や煙管を作って生活する。
〈日本の路地でも皮なめしの関係から、かつては太鼓作りをしていた者が多い。日本における身分制度は、ネパールやインドのカースト制度を手本にしたといわれている〉。日本の差別制度の源流については諸説あり、路地出身の著者でなければ、太鼓の音だけでここまで想起することはないだろう。
驚いたのは、在日の北方少数民族「ニブフ」「ウィルタ」の存在だ。彼らは戦時中、樺太で日本の特務機関の諜報活動に協力したため、戦後はソ連の強制収容所に入れられた。
日本人になることを夢見た約60人が日本へ渡ってきたが、「特務機関が現地人を徴兵することはできない規則だった」という理由で、日本政府から賠償も補償もされていない。まだ存命の何人かは、この日本のどこかでひっそり暮らし続けているという。
被差別民らの生活は絵に描いたように悲惨だが、著者が「路地」出身だからだろうか、等身大の視点で淡々と被差別民の日常を追っていることに好感がもてる。
※SAPIO2012年6月27日号