石原都知事の「尖閣購入」発言は、端緒に過ぎない。国境の島を守るために、今後、我々は何をなすべきか。島が民間所有から公的所有となれば、新たな方策もあるはずだ。元海上保安官で「sengoku38」の名で中国漁船衝突ビデオをYouTubeに公開した一色正春氏が、警備強化の面から防衛案を語る。
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昨年の漁船衝突事件以来尖閣諸島周辺での中国の無法ぶりがエスカレートしている。
今年の3月には、中国国家海洋局所属の調査・監視船「海監」2隻が尖閣諸島に接近し、うち1隻が日本の領海内に侵入。退去を呼びかけた海上保安庁の巡視船に対して「ここは中国の海域である」と主張し、その要請に従わなかった。
昨年、筆者が本誌(2010月5日号)で書いた通り、漁船などの民間船であれば外規法や漁業法、外国船舶航行法などの国内法を適用して海保が取り締まることができる。しかし、「海監」などの公船(非商業用の政府船舶)に対しては、そうはいかない。中国に限らず外国公船は国際法において、一般的に治外法権を持つと解釈され、国内法においても取り締まりの対象外だからだ。そのため、海保は退去を呼びかけるくらいしかできない。
中国船を満足に取り締まれない一方で、政府の上陸禁止措置のために、日本漁船の尖閣への接近を監視し、上陸しないように圧力をかける――そんな矛盾した任務を負わされているのが、尖閣周辺における海保の実情である。
都の購入後にも残る問題は、政府の上陸禁止措置が中国側に隙を与えている事実だ。
しかし、都が国と賃貸契約を結ばずに自ら管理し、政府が方針転換すれば、尖閣周辺における海保の仕事は劇的に変わる可能性がある。従来の、日本漁船を近づけないような仕事から解放され、本来の業務である、航行の安全確保や外国船の取り締まりなどに専念できるかもしれないのだ。
そうなれば、中国船の妨害や海保の“圧力”に晒されていた石垣や宮古などの漁師らが、尖閣周辺で安心して操業できる。仮に、政府方針が変わらず、尖閣に近づく船に政府が海保を使って圧力をかけ続けるのであれば、その時こそ国民が声を上げるべきだ。
とはいえ、日本側のこのような動きに対して、中国が黙っているはずはない。それでも、日本政府はフィリピンのように毅然とした態度で中国の干渉を撥ね退けるべきである。そのためにも、海上警備強化に実効性のある国内法の整備を急がなければならない。
遅きに失した感はあるが、すでに閣議決定されている海上保安庁法などの改正案を速やかに成立させるべきだ。この改正を端緒に、海保の権限強化が期待される。加えて、海保の警察力では対応しきれない、外国公船の領海侵犯を排除できるような仕組みを、法整備も含めて議論していかなければならない。
法改正の訴えに、「現状の法律でも対応は可能」という反論が出ることがある。しかし、この反論には「現場の人間の安全を考慮しなければ」という言葉を付け足す必要があることを強調したい。
そして、必要な法整備ができるまでの間は、現行法で可能な範囲で、不測の事態に備え、海保、自衛隊、そして米軍との協力体制を構築しておかねばならない。都の購入対象ではない大正島と久場島は、いずれも米軍に射爆撃場として提供されたままだ。ならば、米国に「尖閣諸島は日本の領土である」との立場を鮮明にさせ、中国への牽制にすることも必要であろう。それにはまず、日本人自ら「尖閣を守る」決意を行動で示すことが求められるのである。
※SAPIO2012年6月27日号