ウナギ屋の一番のかき入れ時「土用の丑の日」まで、あと1か月に迫った(今年は7月27日)。
例年ならば、この時期からウナギの需要が伸び、活気に満ちた様子が伝わってくる頃だ。しかし今年、関係者から聞こえてくるのは悲痛な声ばかりである。
昨年来の稚魚の不漁に伴う価格高騰の影響で、各地のウナギ専門店では値上げを余儀なくされ、鰻重、鰻丼が、軒並み数百円~1000円のアップとなっている。「これでは客足が離れてしまう」、「土用の丑にウナギが出せない」と、店主たちは不安な日々を過ごしている。
東京を代表するウナギの老舗『五代目・野田岩』(東京・麻布)も、一品300~500円の値上げをした。店主の金本兼次郎氏が語る。
「ウナギは庶民の食べ物なので、値上げは最小限にとどめたい。これまでの人脈などを活かし、少しでも仕入れ値を下げられるよう努力しています」
2007年から鰻丼を販売する吉野家でも、100円の値上げを発表した。
「もっと高い価格設定でもいいのでは、という意見も社内にはありました。しかし、できるだけ安い値段でお出ししたいということで、値上げ幅を100円にとどめ、昨年までと同じ量で提供させていただいております」(広報担当者)
値上げの原因は、ここ3年連続で続いているウナギの稚魚=シラスウナギの不漁だ。水産庁の資料によれば、国内のシラスウナギの捕獲量は、2009年の24.7トンに対して2010年は9.2トン、2011年は9.5トンと激減した。
「2012年は集計中ですが、九州や四国、三河などの養鰻業者の水入れの状況を見る限り、昨年並みかやや下回っていると考えられます」(水産庁増殖推進部)
そのため、価格は文字通り“ウナギ上り”だ。1キロあたりの値段は昨年と比べて2~3倍に跳ね上がっている。
仕入れ価格高騰の煽りを受け、耐えきれなくなった専門店の廃業も相次いでいる。都内だけでも今年に入ってから、多くの店が暖簾を下ろした。中には創業65年を数える老舗もある。都内の専門店店主が語る。
「老舗であればあるほど、質を落とせない。でも今の仕入れ値ベースで黒字を担保するには、これまでの倍以上の値段は必要。それではお客さんは来ない。値段を下げて暖簾に負ける商品を出すくらいなら、閉めようということになる」
※週刊ポスト2012年6月29日号