質問に対する返答の素早さ。明快さ。断定的に言い切る強さ。自信に裏打ちされているようにとうとうと流れるような口調……。最近話題のノマドワーカー、その象徴ともいえる安藤美冬さんのトーク術に、作家で『五感のチカラ』著者の山下柚実氏は違和感を覚えるという。農耕民族の日本人にノマド=遊牧民族はなじまない? 以下は、山下氏の視点である。
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NHKの討論番組やTBSの人物ドキュメンタリー『情熱大陸』で、「ノマドワーカー」として登場し、今、脚光を浴びている安藤美冬さん。先日はBSフジの『プライムニュース』という生番組で、特集コーナーのゲストとして出演されていました。
話題の人ということ以外、さほど安藤さんのことを詳しく知らないのですが、とにかく印象的なのはその語り口です。司会の話し方の「倍」の速度はあろうかという、弾丸トーク。話の「内容」うんぬんの前に、次々とよどみなく出てくる言葉。そのあまりの「速度」に、びっくりさせられました。
質問に対する返答の素早さ。明快さ。断定的に言い切る強さ。自信に裏打ちされているようにとうとうと流れるような口調。
すごい。普通の人ではとても、彼女と同じようには質問に答えることなどできません。「えーと、それはですねぇ」とか、「うーん、なんといいますか」とか、よけいな言葉が間に入ってしまう。
入れながら考え、考えつつ言葉を修正し、なんとか自分が感じたことをつないでいく。相手に伝えようと四苦八苦する。それが一般的ではないでしょうか。
しかし、安藤さんは違うのです。質問をされてから答える時間がものすごく短い。明確に言い切り、修正はなし。そんな風に話すことができること自体、周到な準備無くしてはありえないのでは。
おそらく、質問をあらかじめ想定し、その答を完璧に準備した上での、弾丸トークなのではと、想像させられました。正確で、情報量が潤沢で、論理的な話しぶり。……しかし、ひとつ「残念な」ことがあります。
それは、いくら耳を澄まして聴いても「言いたいこと」が伝わってこないということです。次から次へと滑走していく言葉の掴まえどころがなく、実感として迫ってこない、ということです。
彼女の立ち位置も、いかにも「普通の人」ように語りつつ、現実的には特権的なポジション。よけいに、聞いている人の胸に響かない。結局、何を言いたかったのか伝わらない。ご本人にとっても、聞いている人にとっても、これはまったく「残念な」結果ではないでしょうか。
しょせん日本人は農耕民族。一つ一つ種を蒔き、育つのをじっと待つ。訥々と、感じたことを不器用に語るほうが性に合っているし、聴く側にも響くということかも。結局は、獲物を器用にピックアップする遊牧民族=ノマドの真似をしても切ないよ、ということかもしれません。