プーチン氏が大統領に返り咲いたロシアと日本の間には北方領土問題が存在し、その関係は必ずしも良好とはいえない。だが協力体制が不可欠と大前研一氏は語る。以下、大前氏の解説である。
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ロシアと手を組むことは、日本にとっても大きなメリットがある。その最たるものが、原発停止により喫緊の課題となっている新たなエネルギー源の確保である。
たとえば、サハリンから日本にパイプラインを敷けば、火力発電用燃料の主力である天然ガスが安く確保できる。実際、サハリン南端から北海道・稚内までの宗谷海峡は約40㎞しかないので、やろうと思えば簡単にできる話だ。ウラジオストクから新潟のルートも難しくはない。
むしろロシアからのパイプラインを敷かないでいると、日本は2つの点で不利になる。1つは、すでに中国がパイプラインを敷いているので、このままいくとサハリンの天然ガスが中国に独占される。もう1つは、現在のようにLNG(液化天然ガス)を専用タンカーで輸入する場合、気体のまま送るパイプラインに比べて値段が2倍くらいになってしまうことだ。
しかも、このところ世界的には、タイトガス、コールベットメタン、シェールガスといった非在来型の天然ガスの開発が進んでいる影響で、在来型天然ガスの価格は原油に比べて大きく下がっているが、日本が輸入しているLNGの価格は長期契約で原油価格とリンクしているため、下がるどころか上がっている。その結果が電気代の値上げに繋がっている。
また、サハリンで発電した割安な電力を直流高圧送電で稚内まで持ってくるという手もある。さらには、日本国内では全く解決策のない「使用済み核燃料の永久保存」について、シベリアのツンドラ地帯を貸してもらうという構想も魅力がある。
先日、モスクワを訪問した民主党の前原誠司・政調会長と天然ガス独占企業「ガスプロム」との話し合いでは、サハリンから稚内へのパイプライン敷設の議論が出てきたという。
今回紹介した私の構想はすでに親しい民主党の国会議員に伝えてあったので、もしかすると前原氏はそれを参考にしたのかもしれない。いずれにせよ、これは9月にウラジオストクで開催されるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議までに対日関係を改善させたいというロシア側の意思表示であることは明らかだ。
本稿執筆時点ではまだ成果がわかっていないが、近く、プーチン大統領と個人的にも親しい森喜朗・元首相が特使としてロシアに派遣されるという。北方領土問題、平和条約の締結、極東ロシア開発とエネルギー協力などについて画期的な進展を期待したい。
※SAPIO2012年6月27日号