非婚、晩婚が増え、童貞処女率も上昇……現代社会は男女を結びつける機能が弱まり、同時に性の悩みを抱える人が増え続けている。この「性の問題」を解決する方法はないのか。
その問いに対する答えを模索し続けているのが、障害者への射精介助を行なう「セックス・ヘルパー」を派遣する非営利組織・ホワイトハンズ代表の坂爪真吾氏(31)である。
昨年5月に立ち上げた「童貞処女卒業合宿」は、性経験のない男女を集めてセックス実習を行なうという過激なプランだったことからネット上で批判が噴出。そこで今回は「契約婚」なる新プランを打ち出したが、これがまたしても轟々たる賛否を呼んでいる――。
坂爪氏は東京大学で上野千鶴子氏に師事。その後、日本の性に革命を起こそうとホワイトハンズを起業した。この度、その奮闘記を『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』(小学館101新書)としてまとめ、発売早々重版が決定するなど話題となっている。
坂爪氏が今回提案した「契約婚」とは期間限定の交際契約のことで、ホワイトハンズのHPによれば、「抽選で選ばれた異性のパートナーと、期間を限定した交際契約を結び、実践形式で、男女交際のスキル、相互扶助・共同生活のスキルを磨くことを目的とした、新しいプログラム」という。
参加者の条件は、交際相手がいない22歳~35歳の男女で、学歴は「大学卒以上」。また、無職・フリーターは不可で、定職についているか、大学院・専門職大学院在学中なら応募可能。
「恋愛スキル」を学ぶものであって、「恋愛関係」を築くためのものではないので、男女のマッチングは抽選で行ない、参加者の意思でパートナーとなる相手を選ぶことはできない。
このプランを立ち上げた理由を、坂爪氏はこう語る。
「かつての日本には夜這いなど、若者に男女交際や性を教える仕組みが存在したが、今はそうした場がない。それが少子化や晩婚化、未婚化の一因になっている。現代の社会でも若者が、自分と相手の身体と心を尊重する価値観を学びながら、生身の異性と安全に性体験を積むことができる機会を社会的に保障する仕組みが必要で、そのために契約婚を打ち出した」
では、恩師の上野千鶴子氏はどう考えているのか。
「夜這いは、閉じられた村落共同体における性の管理と統制の形態で、最終的にはその間から結婚相手を選ぶ『宿命』しかない人たちのルールでした。選択肢がこんなに増えた今の時代には、こうした抽選によるマッチングは非現実的でしょう」
とかつての教え子の計画に疑問を呈する。村落共同体が消滅した現代社会に、この仕組みは成り立たないとの指摘だ。さらに作家の内田樹氏は「ナンセンス」とバッサリ。
「例えば開拓時代のアメリカは、男性40人に対して女性は1人。39人の男性は生涯伴侶がいない状態で死んでいった。それぞれの時代によって配偶者を得られたり得られなかったりするわけです。
人の人生における標準もどんどん変わっていて、日本はもはや大学を出て、27~28歳で配偶者を得て、子供ができて……という時代ではなくなった。契約婚というのは、新しいようでいて旧来の人生観にしがみついている。無理があるし、意味があるとも思えません」
こうした意見について、当の坂爪氏は、「皆さんの意見を伺って、改めて困っている人たちの役に立つプログラムを作りたいと思います」とめげる様子はなく、さらなる情熱で活動していくという。
※週刊ポスト2012年6月29日号