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水俣病研究家“放射性物質は海水で薄まる”に「歴史に学べ」

 水俣病研究の第一人者として知られる原田正純さんが6月11日、77才でその生涯を終えた。原田さんが亡くなった3日後の6月14日、熊本市内で開かれた「お別れ会」には、水俣病患者をはじめ約1300人が出席した。

 多忙な原田さんを支え続けた妻・寿美子さん(68才)は、時折涙で声を詰まらせながら、こう挨拶した。

「2007年に脳梗塞で倒れました。奇跡的に回復し、その後も食道がん、白血病といろんな病気をいたしました。それでも、“自分は元気”といいながら最後まで仕事をしました」

 国や企業、そして何より患者の病気と格闘した原田さんは晩年、自らの病魔と闘った。60才直前の胃がんを皮切りに食道がんや脳梗塞を患い、「半身マヒで言語障害が出る」と診断されながら懸命のリハビリで病を乗り越えライフワークの水俣病研究に取り組んだ。

 原田さんが最後に水俣病の患者を検診をしたのは、昨年8月。その後、入院生活を送るも、自らの希望で2012年5月から自宅療養。病床でも気に懸けていたのは、やはり患者たちのことだった。

「“もう一度水俣に行きたい”“行って患者さんたちを診たい”といっていましたが、それもかないませんでした」(寿美子さん)

 たくさんの人が寿美子さんと同じ思いで涙にくれる。お別れ会には、原田さんが胎児性水俣病を発見するきっかけとなった兄弟の弟、金子雄二さん(56才)の姿もあった。金子さんが声を振り絞るように話す。

「先生がぼくを診てくれたことで胎児性水俣病が発見できたんです。その後も会うといつも『どげんしてる?』と心配してくれて、先生の顔を見ると安心できました」

 同じく胎児性水俣病患者で、「原田先生の病気が治るように」と、携帯の待受画面を原田さんの写真にし、願掛けをしていた加賀田清子さん(56才)はこう話す。

「先生には50年以上診察してもらいました。いつも優しい笑顔で、『どげんしてるね?』と足をさすってくれました。先生は神様から生まれてきて、最後は神様として帰っていったんだなと思いました」

 そんな原田さんが私たちに向けた遺言は何か――

 原田さんが最晩年に心を痛めたのが、2011年3月に起きた福島第一原発事故だった。事故後、原発から海に垂れ流された放射性物質について、専門家たちは、「海の水で薄まるから、環境への影響は少ない」と口をそろえた。そんな学者たちの解説を知った原田さんは、「日本は歴史から何も学んでいないのか」とため息をついていたという。

 というのも、水俣では、海で薄められたはずの有機水銀が食物連鎖に従って高濃度に蓄積する「生物濃縮」が発生し、その魚介類を食べた住民に被害が続出したからだ。

 原発事故後の5月、原田さんは病身をおして新聞のインタビューに答え、日本社会に強く警鐘を鳴らしていた。

<水俣の苦い経験を、今度こそ、学んでほしい>(朝日新聞2011年5月25日付)

 国や大企業にもひるまない反骨の精神で「水俣病は終わっていない」との信念を貫いて生きた原田さん。遺骨は本人の強い希望で、水俣の海に散骨される。

※女性セブン2012年7月5日号

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