石原都知事の「尖閣購入」発言は、端緒に過ぎない。国境の島を守るために、今後、我々は何をなすべきか。島が民間所有から公的所有となれば、新たな方策もあるはずだ。山田吉彦東海大学教授は、今後の尖閣諸島を守るキーワードは「自然再生」であると指摘する。以下は山田教授による、環境保護の面からの尖閣諸島防衛案だ。
* * *
まずは、徹底した自然調査から始める。尖閣諸島の中心である魚釣島では現在、1000頭まで繁殖したヤギが生態系を破壊し、土壌や水を汚染している。自然再生のためクバの木や土壌などを詳細にDNA鑑定して“原生”状態を把握し、雄大な自然を再生する方法を研究すべきだ。
また、尖閣諸島周辺は東シナ海を北上して日本の太平洋岸を流れる黒潮の源流に近く、日本近海に向かうマグロやカツオなどが大量に回遊している。海鳥も多く飛来し、特にアホウドリの繁殖地は世界中で伊豆諸島の鳥島と尖閣諸島のみ。これらの特色を活かすべく、魚釣島に海洋、漁業、海鳥などの調査を行なう研究所を建設する。都が運営する葛西臨海水族園の“尖閣分室”設立も妙手だろう。
大切なのは日本人だけではなく、海外の鳥類学者や海洋学者を集めることである。手つかずの自然が残る尖閣諸島は研究者にとって垂涎(すいぜん)の的であり、呼びかければ世界中から喜んで参加するはずだ。彼らが島に滞在すれば、中国も手荒な真似はできまい。
同時に自然保護の名の下に開発調査を進める。世界遺産となった小笠原では環境保全のため、開発目的の植樹や伐採は制限されている。一方の尖閣はまだ“何でもできる”ので、島に何人居住できるか、どれほどの電力が必要かなど、規模に適した開発実験をゼロから開始できる。
自然エネルギーだけで、電力の安定供給ができるかどうかの検証も可能だ。魚釣島は山が低く、雲が常に空を流れるため、風力発電や太陽光発電に適しているし、島を取り巻く海のエネルギーを利用して波力発電や海洋温度差発電にチャレンジできる。
そして、調査研究や見学のために島への訪問を希望する外国人(中国人も含む)には都や国に申請書を提出してもらい、公的に管理するのだ。
このように自然回復・環境保護の方針を徹底すれば国際社会の理解も得やすく、いかに無体な中国といえども口出しできない。結果として最善の尖閣防御策になる。
将来的には、石垣島、宮古島などを含めた八重山地方周辺を広域経済連合体ととらえ、自然研究・保護、漁業振興、観光地帯として連携を深める。距離の近い中国・台湾の富裕層を観光客として取り込めれば、“国境の島々”すべてが潤うことになる。
こうしたプランに非現実的な要素は一つもなく、速やかに実現に向けた準備を開始できる。都が購入方針を示した現在、無為無策でいることが最大のリスクなのである。
※SAPIO2012年6月27日号