「柔道を愛好するもの同士、お会いできて大変嬉しい」
柔道二段の野田首相は同じ黒帯のプーチン大統領にそう語りかけ、日本代表がロンドン五輪で着用する柔道着をプレゼントした。もうひとつ、無類の犬好きで知られるプーチン氏に秋田犬の贈呈も申し入れた。
6月18~19日の日程で開かれたメキシコでのG20サミットで、野田首相は念願の日露首脳会談に臨んだ。「大統領と個人的な友好関係が築けた」(同行筋)というのだが、その「トモダチ関係」は甚だ怪しい。
2人の会談時間は約30分。半分が野田首相の持ち時間としても、通訳を介しているから、せいぜい6~7分だ。柔道着と犬の紹介で終わりだろう。
今回のG20は緊迫するシリア情勢や欧州金融危機乗り切りを主要テーマとして開催された。各国首脳は薄氷を踏む思いで交渉に臨み、プーチン大統領もオバマ大統領との首脳会談では2時間にわたってシリア情勢について意見を交わしている。
だからこそ、野田首相も消費税法案採決で民主党内が大荒れの中、1泊4日(政府専用機の機内で2泊)という強行軍で会議に出席したはずだ。その外交成果が、「子犬の里親見つけました」では呆れるほかない。
しかし、メキシコ滞在中の約30時間で野田首相が行なった二国間会談は、ロシアとインドネシア、そして開催国のメキシコだけ。外務省中堅は「滞在1日でトンボ返りだったから、首脳会談をブッキングできなかった」と弁解するが、本命のオバマ大統領とは会談が組めずに、首脳会議会場での数分間の立ち話に終わった。それも、TPP参加表明について、「僕も頑張ります」と声をかけただけだった。
野田首相の「立ち話外交」は各国外交筋の間では有名だ。3月に韓国で開かれた核安全保障サミットでは、オバマ大統領に会うために会場入り口で1時間以上待ち伏せし、「2分間の立ち話会談」に漕ぎ着けた実績がある。入り口でじっとオバマ氏を“忠犬”のように待ち続ける総理大臣の姿を見たら、日本国民は何と思うだろうか。
オバマ大統領は野田首相と会ったその日にプーチン大統領、ドイツのメルケル首相、中国の胡錦濤・国家主席らと長時間の首脳会談を行なっている。野田首相は全く相手にされていなかったのだ。
今年11月に選挙を控えるオバマ大統領は、9月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)を欠席する予定で、年内の日米首脳会談実現の可能性は限りなく低い。米政府当局者の一人はこんな本音を明かす。
「シリア問題やユーロ危機で忙しい中、大統領にはノダと話すべきテーマはない。来年もノダが総理大臣を続けていたらゆっくりと話す時間をもちたい、というのが大統領の本心だろう」
無論、来年のサミットまで野田氏が日本の首相であり続けるとは思っていない。露骨にいえば“そんなリーダーと話をする暇はない”ということだろう。
※週刊ポスト2012年7月6日号