両眼性無眼球症の娘を持つ母──。ビジネスコンサルティング会社「OFFICE BEAD INC」を主宰し、日系企業や日本人アーティストのアメリカ進出サポートを中心に活動している倉本美香さん(43才)がこのほど『未完の贈り物 「娘には目も鼻もありません」』(産経新聞出版)を上梓した。美香さんが、生まれつき両眼がない娘の千璃ちゃん(9才)の誕生からつけていた日記をもとにまとめた、家族の壮絶な8年間の記録だ。
一見、ただ閉じているだけのように見える千璃ちゃんのまぶたの奥には、千璃ちゃん自身のお尻の脂肪組織が移植されている。いずれ顔の骨格がある程度定まった時点で義眼をいれるために、眼孔(眼球がはいっている場所)の大きさを保っておかなければならないからだ。
そして鼻も、生まれたときは中心にある骨が見当たらず、手術で整えた。生後10か月の時に初めて眼の手術を受けて以来、鼻を含め、千璃ちゃんが受けた顔の手術は30回を超える。美香さんは次のように話す。
「千璃は自分の顔を見ることができません。なのに、顔にメスを入れられるなんて…その意味もわからないだろうし、単に痛くて苦しい思いをさせているだけなんじゃないか、親のエゴなのでは…さまざまな葛藤があります。でも、彼女が社会で受け入れられるためには、必要なのではないか…。とはいえ、いつになったら終わるんだろう、費用はどれだけかかるんだろう。そもそも“完成”って何? 千璃の幸せって?とか…何が正解かなんてわかりません。答えを探し続けているという感じです」
出産翌日、千璃ちゃんはMRI検査を受けた。その結果を、小児科医は淡々と夫婦に告げた。2番目の宣告だった。
「No eyes。お子さんには、普通の眼球がありません」