消費増税に向けて民主、自民、公明の3党合意が成立。法案成立に向けて大きく動き出した。消費税政局は一見、増税派の完全勝利に見える。
野田佳彦首相は、「やり遂げなければならないことをやり抜いた上で民意を問う」と言明している。増税法案が成立すれば、ただちに解散・総選挙を打って増税が是か非か国民の意思を問うべきである。
ところが、野田首相には全くその気がない。自民党では谷垣禎一総裁や石原伸晃・幹事長ら一部が、「法案成立すれば解散・総選挙で信を問うべき」と息巻いているだけで、実際は増税合意をまとめた自民党の長老グループも解散など考えていない。実は、民主党も自民党も選挙が怖くて仕方ないのである。
それには理由がある。自民党選対幹部が語る。
「公明党は3月に近畿ブロックの詳細な情勢調査を行なっており、その内容が伝わってきた。維新の会と対決すれば小選挙区で既成政党は壊滅、自公協力でも勝てないというもので、公明党はそれがわかって維新の会と組んだ。わが党の分析も、大阪で自民か民主が生き残る選挙区はせいぜい2議席程度、比例も維新が半数以上を占めるというものだった。
調査当時はまだ維新の会の勢いは近畿にとどまると判断していたが、その後、四国、中国ブロックなどの県連や候補者の独自調査のデータを集めて分析すると、維新への支持が他のブロックでも急速に拡大している。自民党の支持は大敗した前回総選挙から伸びておらず、このまま選挙に突入すれば、せいぜい150~160議席しか獲れない」
例えば、前回民主党に勝った中国ブロックの自民党県連が、これまで自民全勝だった保守地盤が厚い選挙区で詳細な世論調査を行なったところ、自民党の支持は30%前後で民主党にはトリプルスコアをつけていたが、維新の会など「その他の政党に投票」が自民を上回る35%近い支持でトップだったのである。
同様の調査を行なった四国ブロックの自民党県連幹部もこう語る。
「いまや敵は民主党ではない。維新の会が候補者を立てれば、徳島、愛媛の都市部をはじめ、四国のかなりの小選挙区で自民党は競り負ける情勢だ」
民主党はもっと情けない。昨年末から今年4月にかけて、300小選挙区すべてで順次情勢調査を行なった。調査項目は「民主と自民の政党支持率」「民主党には投票しないという忌避率」「候補者の知名度」の3項目で、選対幹部が各議員に個別に結果を報告し、自民候補との差が10ポイント未満の議員には、「頑張ればまだ逆転できる。党全体でも200議席近く取れる」と説明してぬか喜びさせている。
アホか、である。自民党との優劣など聞いても意味はないのだ。大阪維新の会を“ないもの”として“勝てるぞ”と騒ぐこの政党が国民に見捨てられたのもよくわかる。さすがに民主党選対スタッフはそれが幻想であることを認めた。
「惨敗した2005年の小泉郵政選挙の時は小選挙区52、比例61の113議席だった。今回はあのとき小選挙区で当選した幹部たちにもより厳しい逆風が吹いている。比例票も北関東や南関東、東京ブロックはみんなの党、東海は減税日本、近畿は大阪維新に持って行かれる。
消費税増税と原発再稼働が個別の選挙区の得票にどう影響するかの調査はこれからだが、選挙制度改革で比例定数を削減すれば、最悪の場合、小選挙区・比例合わせて50~60議席の壊滅状態もありうると怖れているが、誰も口にできない」
民自公の増税派が大連立に動き、解散を先送りしようとしているのは、有権者に選択肢を与えないことで延命しようという姑息な発想に他ならない。
※週刊ポスト2012年7月6日号