北朝鮮の金正恩第一書記は5月9日に平壌市の万景台遊戯場を視察したが、遊技場の管理状況に憤慨して激しい語調で関係者を叱責し、随行した崔竜海総政治局長に対し、営業を停止して人民軍による改修を命じたと朝鮮中央通信が報じた。その言動から何が読み取れるのか、ジャーナリストの惠谷治氏が解説する。
* * *
金正恩登場以降、北朝鮮では以前より“情報公開”を進めていることが窺えるものの、これほどあからさまに金正恩の憤激を率直に伝えた報道は初めてで、この万景台遊戯場視察報道だけが際立っている。
また、この視察の状況は朝鮮中央テレビでも放映された。当日は初夏の日差しを浴びて暑かったようで、金正恩は帽子をかぶり、視察途中から人民服の前ボタンを外し、まるで“寅さん”のような姿をしていた。
いくら亡き父・金正日が『男はつらいよ』シリーズの大ファンだったとはいえ、とても最高司令官とは思えない姿を国民にさらすことを認めた党宣伝煽動部の意図は不明である。
金正恩の指示を受けた崔竜海は、約2週間後の5月22日、幕僚を引き連れて万景台遊戯場の改修状況を視察した。
朝鮮中央通信は、「金日成主席と金正日総書記の指導の足跡が宿っている万景台遊戯場を、先軍時代の要求に即して、現代的な人民の文化休息の場に改修するための総突撃戦を行なっている」と報じ、「最高司令官の崇高な人民観を心に刻み付けて、必要な資材を円滑に保障し、工事を定められた期日内に終え、最高司令官の命令を決死の覚悟で貫徹するための対策が講じられた」と伝えた。
金正恩が、たかだか遊園地の改修工事を人民軍総政治局長で党内序列第4位の崔竜海に命じた最大の理由は、軍の建設部隊動員という工事費コストの削減もさることながら、「必要な資材を円滑に保障」するためだった。現在の「先軍政治」下の北朝鮮では、あらゆる建設資材は軍の管理下にあり、全ての建設工事は軍が中心となって行なわれている事実を、この一連の報道は暴露している。
※SAPIO2012年7月18日号