再稼働に揺れる大飯原発から約80km、兵庫県丹波市春日町・山王地区。ここは、わずか11世帯、人口42人で、平均年齢が60才を超える典型的な過疎地域だ。由良川水系の支流である竹田川が流れ、その山裾にわずか11世帯の家々が点在するこの地域だが、村を訪ねて目を奪われるのは、川沿いの敷地に設置された巨大なソーラーパネルだ。
この施設の前には《山王自治会 太陽光発電所》と記された大きな看板が掲げられ、ぎっしりと並べられたパネルが、静かに稼働しながら電気を生みだしている。その光景を眺めていると、山王地区の自治会長・細田泰宏さん(61才)が、こう話す。
「いやぁ、ここらはね、あの大飯原発から南西に、約80kmの場所なんですよ。これまでは、あまり原発のことは考えなかったけど、何かあったら農作物は全部アウト。セシウムがなんぼか出たら、住めんようになる。だから、この太陽光発電は、この村の希望の証なんですよ」
山王地区は、42人の人口の半数が60才以上で、うち80才以上のお年寄りが6人という、限界集落一歩手前の状態だ。ところがその住民たちが、自らアクションを起こした。今年3月末、川沿いの空き地に216枚のパネルを並べ、発電所をスタート。再生可能エネルギーというユニークな試みへの第一歩を踏み出したのだ。
住民組織の自治会が、太陽光発電に本格的に取り組み、これを実現させたのは、全国で初めてのケースだという。
その発電量は、年間4万kWh超を見込む。一般家庭の電気使用量は年間約3400kWhだから、12世帯分の1年間の電気を賄えるだけの電気をつくることができる。前述したように山王地区は11世帯なので、数字上は“電気の自給自足”が達成できるという。ただし、電気は各世帯に直接送られるのではなく、いったん関西電力に買い取ってもらう仕組みをとっており、その年間収入は180万円に上るという。
「もともとは原発の代わりなんて、そんな大きなことまで考えていたわけじゃなかったんですけどね…」(細田さん)
※女性セブン2012年7月12日号