日本人の平均寿命は長く世界トップレベルにあるが、その一方で認知症や寝たきりで介護が必要となる高齢者が増加し、大きな問題となっている。
6月1日に厚生労働省より“健康寿命調査”が発表された。健康寿命とは、2000年にWHOが打ち出した概念で、介護を受けたり寝たきりになったりせず、自立して健康に生活できる寿命を示す。
都道府県別でみると、健康寿命の男性の1位は愛知県、2位は静岡県。女性は1位が静岡県となっている。
静岡県民はなぜ健康長寿なのか。静岡県の総合健康センターでは、健康でより長く生きるための支援方法を研究するため、『高齢者コホート』と銘打った大規模な生活実態調査を行なっている。1999年から計1万363人の高齢者(65~84歳)を対象に、3年ごとに30~40項目にわたる聞き取り調査を行ない、その人たちがどんな病気で亡くなったのか、何年後に介護状態になったのかなどを追跡調査しているのだ。
静岡県の健康長寿の取り組みに携わる、静岡県立大学学長で衛生学が専門の木苗直秀氏は次のように話す。
「この調査から、運動、栄養、休養、社会活動が健康長寿の柱になるということがわかったのです。『週5日以上歩く』『十分な睡眠をとっている』『町内の作業やボランティア活動に週2回以上取り組む』などの、要素を満たした人は、寝たきりなどにならず、生活の質が高いまま長く健康でいられる傾向があると分析されてきています」
実際に静岡県には、うなずけるデータがある。
例えば「地場の食材」の豊富さでは、静岡県が全国1位で、農水産物の生産品目数は219品目に及ぶ。これは「栄養」をバランスよく摂取するうえで有利な条件といえる。しかも、平成22年国民健康・栄養調査(厚生労働省調べ)によると、「飲酒習慣者」の割合は全国で2番目に低く、肥満者の割合も全国で5番目に低い。1日に歩く平均歩数も男性が10位、女性では5位と上位につけている。
もうひとつ、静岡県で忘れてならないのが「お茶」である。『掛川スタディ』という緑茶研究の第一人者である、静岡県掛川市立総合病院消化器内科の鮫島庸一医師が解説する
「動脈硬化や糖尿病の予防になることや、緑茶に含まれるカテキンという成分が悪玉コレステロールを減少させることなど、お茶の健康効果についてはさまざまな研究報告があります。静岡県はお茶の産地で、県民が全国平均の2倍のお茶を飲んでいるというデータもあるほどですから、今回の健康寿命にも関係しているでしょう」
逆に、残念な結果が出てしまったのが、男性最下位の青森県と最下位から2番目の高知県だ。とくに青森県は、平均寿命でも男女ともに全国最下位である。
この理由も、また生活習慣にあるようだ。
「青森県は習慣的な喫煙者の割合も、習慣的に飲酒する人の割合も全国1位。また、男性の肥満の割合も高く、歩く歩数が少ない、野菜摂取量が少ないといったデータもある」(青森県健康福祉部がん・生活習慣病対策課)
高知県の健康長寿政策課の担当者は健康寿命が短い理由を次のように語った。
「高知県の男性は心疾患や脳卒中などで亡くなる率が高く、それが今回の結果に現われていると考えています」
参考までに47都道府県別男女「健康寿命」ランキングの上位5県と下位3県を紹介しよう。
■「健康寿命」ランキング上位5県(カッコ内は平均寿命)
●男性
【1位】愛知県:71.74歳(79.05歳)
【2位】静岡県:71.68歳(79.35歳)
【3位】千葉県:71.62歳(78.95歳)
【4位】茨城県:71.32歳(78.35歳)
【5位】山梨県:71.20歳(78.89歳)
●女性
【1位】静岡県:75.32歳(86.06歳)
【2位】群馬県:75.27歳(85.47歳)
【3位】愛知県:74.93歳(85.40歳)
【4位】沖縄県:74.86歳(86.88歳)
【4位】栃木県:74.86歳(85.03歳)
■「健康寿命」ランキング下位3県
●男性
【47位】青森県:68.95歳(76.27歳)
【46位】高知県:69.12歳(77.93歳)
【45位】長崎県:69.14歳(78.13歳)
●女性
【47位】滋賀県:72.37歳(86.17歳)
【46位】広島県:72.49歳(86.27歳)
【45位】大阪府:72.55歳(85.20歳)
※データは、厚生労働省科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」による。
※週刊ポスト2012年7月6日号