今年6月12日にビール大手5社が発表した1~5月累計のビール系飲料の出荷量は前年同期比0.6%減と、減少傾向に歯止めがかからない。この傾向はまだまだ続き、年間1~3%は縮小していくというのが業界の見方だ。
そうした中でビール各社は、どこに活路を見いだしていくか、決断を迫られている。そんな中、サッポロビールがラム「バカルディ」を使った「バカルディモヒート」や「バカルディ キューバ リブレ」といったカクテル缶をヒットさせている。シェア4位からの逆転を狙うサッポロビールは、どのような戦略を描いているのか。寺坂史明社長に訊いた。
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――ビール会社でありながら、ビール以外の商品に注力していくことに、違和感を抱きませんか?
寺坂:背景には市場の変化があります。ビールが若い世代に好まれなくなってきている。 失礼な言い方ですが、20代の多くは、味覚の中でも苦みを味わえる部分が未開発なのかもしれない。平均寿命が延びる中で、「最後に開発される味覚」とされる苦みを味わえるのが、昔は20代からでしたが、今は30代からスタートしているのかもしれません。
しかし、20代の方は、将来ビールを消費してくれるお客さんです。だから、今売り出しているカクテルは、若い方々の“お酒の導入部”として、楽しんで消費してくれればいいと思います」
――ビール市場が縮小する中で、ビール系飲料の売り上げが小さくなっていくのはやむを得ないと?
寺坂:いえ、そうは考えていません。サッポロは、シェアで4番目になってしまいましたが、私はトップシェアを獲るという夢を捨てていません。
我が社のビールテイストの主軸3品は『黒ラベル』と『ヱビス』、そして『麦とホップ』です。これらの売り上げを伸ばす余地は、まだある。もっとおいしくなれる、もっと磨いてしかるべきだと思っています。
今、“ヱビスはどこまで美味しくなれるだろうか?”をコンセプトに、『ヱビス一年熟成』という商品を開発中です。これはえらいチャレンジ。タンクの中で、1年間酵母がへたらずに耐え忍ぶというのは、高度な技術が必要だし、手間暇がかかる。それで鍛えられた技術を、通常のヱビスや黒ラベルにフィードバックすれば、もっとビールは旨くなれるはずです。
実際に、昨年10月に新ジャンルの「麦とホップ〈黒〉」を20万ケースの数量限定で出したところ、大反響でした。それを今年3月28日に、通年商品として発売したところ、当初の年間売り上げ目標が150万ケースだったのが、1か月で60万ケースが売れ、目標を300万ケースに上方修正しました。これは何といっても、商品が旨いからだと思っています。この夏に発売する新ジャンルの「北海道PREMIUM」も、美味しくできたという自信があります。
――「変身」や「前進」、技術革新のためには、多額の投資が必要なのでは?
寺坂:カネよりも、知恵を出すべきだと思います。それを実現するために、『スクラム開発』という仕組みを作りました。通常の商品開発は『新価値開発部』が担当していますが、それとは別に、営業や事務など様々な部署の社員が20人ほど集まって、“スクラム”で知恵を出し合うのです。例えば飲食店を担当している女性の営業担当社員が、バーなどで聞いたニーズをもとに提案したりする。
特徴的なのは、それをまとめるのは、コンセプト開発の専門家など、外部のコーディネーターだということです。外部の方の意見を取り入れて、1年間かけてアイデアから商品化へとつなげます。こうすると、従来の商品の“延長線”ではないものが生まれてくる。
※SAPIO2012年7月18日号