国際謀略から闇献金、果ては家庭問題まで、徹底した執拗な小沢バッシングは20年に及ぶが、いずれも空振りに終わり、政治家・小沢はまだ生きている。それだけでも稀有な存在だが、なぜ小沢一郎・元民主党代表だけがこれほどまでに狙われるのか。
20年前から「この男を見続ける」と注目し、ウォッチしてきたジャーナリスト、鳥越俊太郎氏と、一線を画して小沢氏の政治手法に批判的な立場を取る東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏は、しかし「小沢叩きの異様さ」で意見が一致した。
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鳥越:私が小沢一郎という政治家に注目したのは20年以上前、たしか官房副長官だった頃で、自分の番組『ザ・スクープ』で直撃取材したことがある。47歳で自民党幹事長になり、私は日本を動かす政治家としての存在感を感じ、番組で、「この男をこれからも見続けていきます」と宣言しました。その通り、彼は政治の節目節目で必ず大きな役割を演じ続けてきたけど、こんな政治家は過去にはいなかったし、アメリカや諸外国の政界を見渡しても珍しい。
長谷川:私は小沢氏に会ったことはないし、鳥越さんほど長く注目してきたわけではありません。私が注目したのは西松建設事件や陸山会事件そのものより、むしろマスコミの異常ともいえる小沢バッシングからでした。一方、それでも政治の中心に居続ける小沢氏のタフさには正直、驚きます。それが小沢神話につながっているのかもしれません。
鳥越:私も報道は常軌を逸していると感じました。
長谷川:秘密の捜査であるはずなのにこれでもか、と毎日のように小沢批判記事が出た。明らかにネタ元は検察です。マスコミがあそこまで情報を当局に依存することも異常だし、今となってみると、捜査報告書はデタラメ、西松建設からの違法献金は訴因からも外れ、陸山会事件では、どうでもいいような「期ズレ」が争点だった。はっきりいえば検察がデッチ上げたような事件だったと思います。
鳥越:異様さの象徴といえるのが、ゼネコンへの一斉家宅捜索でした(2010年1月)。検察は胆沢ダム建設で「天の声」があり、その見返りとして小沢氏にカネが渡ったというストーリーを描き、大手ゼネコンにも一斉捜索をかけた。テレビも新聞も、その様子を大きく報じたが、その後どうなったかの報道は一切ない。何も出ないまま立ち消えになりました。しかし国民には“大捜査を受ける小沢”というイメージだけが植えつけられて残る。
長谷川さんが指摘されたように、西松建設事件はおろか、微罪にすぎない陸山会事件ですら、検察は2回も不起訴決定をした。つまり何も犯罪行為は認められなかったわけです。それと国民が受けたイメージはあまりにも違う。
長谷川:検察審査会が小沢氏を「起訴相当」と議決する根拠のひとつになった田代政弘・検事の「捜査報告書」は完全なデタラメ。特捜部長に宛てた副部長の報告書も佐久間達哉・前特捜部長が自分で書いていた、と報じられた。
それに小川敏夫・前法相によれば、田代報告書にも文体に不統一な点があって、実は佐久間部長の手が入っていた可能性がある。こうなるともう検察による重大な犯罪です。本来なら大阪の郵便不正事件で証拠を捏造して実刑判決を受けた前田恒彦・元検事より罪刑が重くなる可能性がある行為です。
鳥越:そもそも検審に対して検察が説明すべきは、なぜ自分たちが不起訴にしたのかという理由でしょう。それなのに逆に「小沢はこんな悪い奴だ」と印象づける報告書を作った。これを検察の内部処分で済ますことは許されない。
※週刊ポスト2012年7月13日号