白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として著書やテレビ出演も多い白澤氏が、「フォアグラ」について考察する。
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フォアグラといえば、キャビア、トリュフとともに世界三大珍味の一つ。口の中に広がる独特の香りと食感を楽しみにしているグルメファンも多いだろう。そんなフランス料理の定番が、7月からカリフォルニア州では楽しめなくなった。
動物愛護団体などがかねてから肝臓を太らせるために鴨やガチョウにむりやり餌を食べさせることは残酷であると訴えてきた。2004年、カリフォルニア州のアーノルド・シュワルツェネッガー知事は動物保護団体の意見を受けて、州内で「肝臓肥大を目的とした鳥類の強制給餌」と「強制給餌によって作られた製品の販売」を禁止する法案に署名した。
代替的な給餌方法を見つけるまで法の執行が8年間猶予されていたが、結局代替給餌法は出現せず、本年7月1日より法が施行されることになったのである。違反者には1000ドルの罰金が科される。
フォアグラはフランス語で、フォア(foie)は「肝臓」、グラ(gras)は「脂の多い」、つまり「脂肪肝」を意味する。ヒトでは「脂肪肝」は成人の3人に1人が潜在的にかかっているといわれる代表的な生活習慣病の一つだ。
もともと肝臓は3~5%の脂肪を含んでいるが、脂肪が5%を超えた状態を「脂肪肝」と診断している。食事で糖分や脂質、アルコールを摂りすぎると、小腸で分解・吸収された脂肪酸が肝臓に運ばれた後に中性脂肪に変換されて蓄積される。男性では40歳前後、女性では40代以降の中高年に多発している。
問題は、肝臓は「沈黙の臓器」なので自覚症状がないこと。定期的な健診を受けることが重要になる。アルコール性の脂肪肝の場合は放置すると肝硬変に進むこともあるので注意を要する。
最近ではアルコールを飲まない人でも脂肪肝から肝炎、肝硬変、肝臓がんへと病変が進行していくことが知られていて、「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」と呼ばれる。脂や糖分の多いバランスを欠いた食生活や運動不足による内臓脂肪の増加が原因と考えられているが、無理なダイエットとリバウンドを繰り返して肝臓に負担をかけている若い女性の症例も増えている。
※週刊ポスト2012年7月13日号