「子供のころは『北海道で牧場のお嫁さんになりたい』って夢があったんです。もちろんサッカーも大好きで、サッカー選手になりたいっていう夢もありました。小学校の卒業式には、みんなの前で「私、Lリーガー(現なでしこリーガー)になります!」って、宣言しましたから(笑)」
子供の頃から変わっていない大きな瞳の輝きがさらに増した。なでしこジャパンMF・川澄奈穂美(26)はその華奢な身体からは想像できない程のスタミナと決定力の持ち主だ。昨年のドイツW杯での活躍は記憶に鮮明に残っている。
「今だからいいますけど……アメリカとの決勝の延長後半、澤さんのあのゴールが決まった瞬間、実は私、泣いてたんですよ。試合中に涙を流したのはあれが初めて。なんでそうなったのかよくわからないんですけど……ぼやけた視界の向こうに澤さんの姿があったのを、今でもよく覚えていますね」
思い返せばW杯メンバー発表の記者会見の席も、ドイツで優勝台に立った時も隣には澤穂希がいた。所属のINAC神戸レオネッサでもチームメイトだ。
「澤さんは特別な存在。でも憧れの選手とかではないんですよ。これがうまく表現できないんですが……自分にとって本当に不思議な存在なので。
澤さんが凄いのはバロンドール(FIFA年間最優秀選手賞)を受賞し世界一になっても、今までと変わらず努力してること。そんな姿を毎日見ていると、自分がこれでいいなんて思うことは絶対ないですね。永遠にその背中を追い続ける存在です」
7月27日にはいよいよロンドン五輪が開会する。ところが五輪直前の腕試しだった6月のスウェーデン遠征は、アメリカ戦ではまさかの1-4の大敗、スウェーデン戦は1-0の辛勝だった。
「アヤ(宮間あや・MF)が、アメリカの底力を発揮させたら、こうなるっていっていたらしいですが、とにかく日本のことをよく研究してきたと思いました。
でも昨年のW杯前のアメリカとの親善試合も2試合とも0-2の敗北だった。あの時も悲観している人も多かったのですが、私は違いました。あのアメリカのサッカーは一人かわせばなんとかなると思ってましたし、あとはチームとしていかに積み上げていくか。
スウェーデンには勝てましたが、ずいぶん決定機を作られたのが課題ですよね。W杯であたった時はエースのシェリン選手が不調でしたが、今回は調子がよかったです。勝ったけど侮れない相手です」
文■上野直彦(サッカージャーナリスト) 撮影■西條彰仁
※週刊ポスト2012年7月13日号