「貿易立国ニッポン」が出口の見えない隘路に入り込んでいる。2011年の貿易収支が31年ぶりに赤字に転落し、マイナス基調が続いている。こんな事態になったのはなぜか。大前研一氏が解説する。
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もともと日本企業は、これまで国内で「六重苦」に苦しめられてきた。
超円高、高い法人税、製造業への派遣禁止などの労働規制、割高な電気料金、CO2削減のための環境対策費、貿易自由化の遅れの6つである。最近はさらに部品産業の国内空洞化、6年連続で首相が交代するなどの政治不安、少子高齢化、国内需要の減退、国民心理の暗鬱化、地震や豪雨などの自然災害に機能不全の中央政府、という新たな六重苦が加わっている。
それに耐えかねた企業の「日本脱出」の流れが今後ますます加速するのは間違いない。そうしなければ、企業が生き残れないからだ。
日本が31年ぶりに貿易赤字に転落したというニュースも、そうした流れと無縁ではない。これは、一時的な現象ではなく“歴史の必然”であることに注意しなくてはならない。
国家には発展段階というものがあり、その過程で特定の産業が強い輸出競争力を持つフェーズ(段階)がある。たとえば、ナイフ、フォーク、スプーンなどの銀食器産業は長くイギリス(シェフィールド)が強かったが、ある時期からドイツ(ゾーリンゲン)に取って代わられた。
また、繊維産業はイギリスもドイツも競争力がなくなり、当時の新興国で労働コストが安かったアメリカのニューイングランドに行った。
その後、新たに台頭してきた日本が圧倒的に強くなり、日米貿易戦争の口火となった繊維交渉へとつながった。さらに繊維産業は安い労働力を求めて韓国、台湾、インドネシアへと移動し、今は中国に集結しているわけだ。産業の“主役”として栄える国は、国家の発展段階によって次々と入れ替わってきたのである。
※SAPIO2012年7月18日号