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政治家お得意の「成長戦略」 それができればノーベル賞もの

 政治家と新聞がよく使う「成長戦略」という言葉。いつごろから使われるようになったか定かでないが、民主党政権になってから大流行だ。だが「こうすれば必ず経済が成長する」なんていう戦略があるのだろうか、と東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏は指摘する。以下は長谷川氏の解説だ。

 * * *
 増税が確実になってきたと思ったら、民主党政権は補正予算の編成を言い始めた。増税実施の前になんとか景気をよくしたい。それで財政出動でテコ入れしようという話である。

「前原誠司政調会長は24日のフジテレビ番組で、今秋に景気対策を盛り込んだ2012年度補正予算案を編成する方針を表明した。消費増税の第1段階である14年4月の8%への引き上げを念頭に置いた措置で『バラマキではなく成長戦略に資する補正を組んで(景気の)巡航速度を高める』と語った」(日本経済新聞・6月25日付)

 私はなにがなんでも公共事業の追加に反対ではない。必要な事業はたしかにある。ここで指摘したいのは成長戦略のほうだ。「セイチョウセンリャク」という言葉がいつごろから使われるようになったか定かでないが、民主党政権になってから大流行だ。だが「こうすれば必ず経済が成長する」なんていう戦略があるのだろうか。

 答えはない。経済成長をどうやって実現するか。これは経済学と経済政策の一大テーマであり、もし答えを発見すればノーベル賞が100個もらえるくらいの話である。正しい成長戦略が分からないのは、たとえばアフリカをみればあきらかだ。アフリカには鉱物はじめ天然資源が豊富にあるのに、この200年間、成長が事実上ストップしたも同然の国がたくさんある。

 同じように長く経済が停滞していた東アジアは20世紀半ばから離陸し、目を見張る成長を遂げた。貿易を活発にしたとか民主化が進んだとか、いろいろ理由は指摘されている。それが成長の源泉なら、そのままアフリカに適用すればよさそうなものだが、なかなかうまくいかない。

 日本の場合、成長戦略を作っているのは政党ではなく霞が関である。とりわけ経済産業省だ。菅直人政権でも成長戦略を作ったが、中身をみたら、自民党時代の政策とほとんど変わらなかった。同じ経産省が作っているのだから当然である。

 では経産省の戦略が正しいかといえば、もっともらしい部分もあるが根本が間違っている。とくに「ターゲティング政策」と呼ばれる特定産業育成策に走ったときはそうだ。政府が「この産業は有望だから補助金や税の減免で育成を」なんて言っても、そもそも政府になにが有望産業かを見極める能力がない。「日本の役人は優秀だから分かるのでは」というのは、まったくの勘違いである。

 官僚が政治家に成長戦略を売り込むのは、役所の予算と天下り先を増やすのが真の目的である。「最近はここが儲かっているらしい」と知ると、官僚はすぐ業界団体作りに動く。OBを専務理事に送り込むためだ。

 そうやって日本は業界団体と天下りの専務理事だらけになった。政治家や新聞が「成長戦略」を声高に宣伝し始めたら、裏で官僚とグルになっているとみて間違いない。

※週刊ポスト2012年7月13日号

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