不祥事や事件が明らかになるたびに繰り返される「あるまじき行為」というお詫びの言葉。組織人として似つかわしくない行為に対するものだが、したり顔でそれを報じるメディアにも疑問符が付く。大人コラムニスト・石原壮一郎氏が「あるまじき行為の恥ずかしさ」から学ぶ。
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火を消すのが仕事のはずの消防士が、火をつけてしまったらシャレになりません。しかし、昔からその手の事件はよく目にします。7月2日付の「YOMIURI ONLINE」に報じられていたのが「消防士、後輩にアルコールかけライターで火を…」というニュース。
鹿児島県霧島市の男性消防士(29)が、同僚10人ほどでお酒を飲んでいて、眠ってしまった後輩男性を起こそうとシャツに消毒用アルコールをふきかけ、ライターを近づけたら火がついてしまったとか。後輩男性は腹部に全治一か月のやけど。同市消防局長は「消火活動に従事する者としてあるまじき行為」と言っています。
消防士にとっての火にまつわる事件のように、どんな職業にも「○○として、あるまじき行為」があるはず。銀行員なら飲み屋のツケの踏み倒し、スーパーの社員や書店員なら万引き、警察官は……犯罪一般どれも当てはまりますね。自動車メーカー社員の自転車通勤や、電力会社社員の節電は……ま、それはべつに悪いことじゃないか。
それぞれの業種や立場ごとの「あるまじき行為」は、いっそうの非難を受けるのはもちろん、恥ずかしさもひとしお。個人だけでなく、会社や組織全体でやってしまう「あるまじき行為」もあります。くれぐれも気を付けましょう。
ところで、話は飛びますが、原辰徳巨人軍監督の「不倫をネタに脅されて素直に一億円払った問題」が話題になっています。それはそれで夢を売るプロ野球人としては「あるまじき行為」ですが、その後の展開にはさらに激しくあきれさせられました。
読売グループ側は真相のさらなる究明や反省もそっちのけで、このスキャンダルは前球団代表の清武英利氏が週刊誌にリークしたものだと決めつけ、原監督が記者会見で「清武さんへ」と題する手紙を発表したり、読売グループのドン・渡邉恒雄会長が名指しで非難したりしています。これまでにも清武氏の本の出版を訴訟を起こしてやめさせようとしたり、今回のスキャンダルを報じた「週刊文春」を名誉棄損で訴えると発表したりなど、脅しや嫌がらせにも見える訴訟に余念がありません。
いくら気に入らない人物だからといって、日本一の部数を誇る大新聞が個人を一方的に悪者扱いするのは、けっこうとんでもないこと。そんなふうに臆面もなく問題をすり替えたり訴訟で言論を封じようとしたりするのは、言論機関として「あるまじき行為」です。
そういえばさっきの消防士の事件は「YOMIURI ONLINE」で見たニュースでした。もしかしたら現場で働いている記者たちは、自分の会社のやり方に義憤や恥かしさを感じていて、上層部やナベツネさんに「お前ら『あるまじき行為』の恥ずかしさを知れ!」というメッセージを込めて、あの記事をアップしたのかもしれません。あくまで勝手な推測だし、万が一そうだったとしても、遠回しすぎて伝わらなさそうですけど。