2010年ごろに頂点を迎えた中国のオークション市場は、当時、日本のマーケット100億円程度に対し、5000億円と圧倒的な存在感を示していた。だが、今年の落ち込みは酷く、オークション会場では落札ゼロというケースもあるという。ジャーナリストの富坂聰氏が解説する。
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絶好調と思われた中国経済にもいよいよ陰りが色濃く滲みはじめている。そのことは中国の企業経営者たちの景況感と将来に対する見通しが芳しくないことなどから見ても読み取れるのだが、なかでも贅沢品の消費から以前のような勢いが失われていることが顕著な傾向として見受けられるのだ。
私は昨年、拙著『中国マネーの正体』(PHPビジネス新書)で、これからの中国経済はかつての日本型“バブル崩壊”の道をたどることはないだろうが、確実に一つの転換期を迎え、ジリジリと減速すると予想した。その一方で、人民元高や人件費の高騰といった中国を取り巻く環境の変化によって対外的にはかえってチャイナ・マネーの存在感を増すだろうと予測した。
現在、中国資本がヨーロッパやアメリカの大企業を呑み込むといった華々しいニュースに混じって国内の景気後退を伝える報道も目立つのは、こうした予測が現実になり始めた証左でもある。
だが、何もかもがこの公式に当てはまるのかといえばそうではない。象徴的なのはオークション市場である。
2010年ごろに頂点を迎えたと考えられる中国のオークション市場は、当時、日本のマーケットが総額で100億円程度だったのに対して中国は5000億円と圧倒的な存在感を示していたのだ。
この中国のオークション業界をけん引してきたのは保利集団と嘉徳オークションの二大勢力だった。当時、二つのオークション会社はともに、日本での事業展開に非常に力を入れていた。というのも日本には日本人が価値を理解できない中国の書や画がたくさん眠っていて二束三文で手に入ったからだ。
実際、私のところにも「80年代に手に入れた書があれば買いたい」と何人もの中国人が話を持ちかけてきたものだ。だが現在、かつて声をかけてきた人間に「書はまだ買ってくれるのか?」と聞いても芳しい答えが返ってくることはなくなった。
その理由をある業界関係者は、「今年の落ち込みが酷い。まだ年間の集計が出るまではわからないが、対前年比で大きく縮小することは間違いない」からだという。事実、オークション会場では落札がゼロというケースもあっというのだ。
一時は日本がかつて二束三文で買って帰った中国の宝をすべて買い戻すほどの勢いがあった中国のオークション会社だったが、いまやすっかりその元気をなくしてしまったようだ。