25歳の町の植木屋職人が、新聞の三行広告を偶然見つけたことにより、皇居のそばで1万坪の面積を誇る英国大使館に住み込みで働くことになる――そんな生を歩み、昨年3月31日限りで退職した庭師・濱野義弘さん(52)。そもそも英国大使館で働くようになったきっかけを、こう振り返る。
「忘れもしない1985年9月17日です。新聞の三行広告に、〈庭師 英国大使館住込50歳迄 経験者委細面接写送 (千)一番町一英国大使館平井〉と書いてあったんですね。
当時、僕は個人のお屋敷を回って植木の手入れをしたり、公園の造園工事をしたりしていました。ただ、どこかで仕事を“こなす”感覚になっていて、『このままじゃダメだ』と危機感を抱いていましたし、『自分には作るべき庭があるはず』と思っていたのです。今思えば、生意気な25歳です(笑)。
しかも、英語はまったくしゃべれないし、英国大使館がどこにあるのかすら知らなかった。でも、『受かれば儲けもの』と応募しました。楽観主義者だから良かったのかもしれません」
その後、2度の面接を経て、濱野さんは採用された。濱野さんが続ける。
「1度目の面接のときは、白のTシャツにジージャン、ジーパン姿で英国大使館に行きました。植木屋の仕事をしていて、スーツを持っていなかったのですが、今思えば恥ずかしいことです。
それなのに、最終面接の案内が届きました。さすがに、そのときはスーツを友人から借りました。でも、サイズが合わず、すごくピチピチでした。Tシャツにジーパン姿よりはマシでしたけど……。面接では、普段と違う雰囲気に呑まれてしまいましたが、自分のできることを必死に話しましたね。数週間後に合格通知が届くのですが、なぜ選んでくれたのか未だにわかりません」
濱野さんは昨年まで英国大使館を勤め上げ、その体験を著書『英国大使の御庭番』(光文社)に綴っている。「三行広告」との出会いから人生が変わったわけだが、その背景には「受かれば儲けもの」ぐらいの気持ちで新しい世界に飛び込んだ、濱野さんの楽観主義があったのは間違いないだろう。