4年前の12月、1人の全盲の男性が駅のホームで走行中の電車に巻き込まれ、重傷を負った。この男性は落語家・笑福亭伯鶴(55)。高座への復帰も危ぶまれる大けがだったが、リハビリの末、彼は舞台に戻ってきた。誰もが先の展開をこう予測するだろう。「ハンデを乗り越えた落語家の復活物語」――。しかしインタビューに応じた伯鶴は、「僕がいいたいのは、社会的弱者が陥りがちな“甘え”の問題です」と語り始めた――。
「どうにも、世の中は極端やねえ。『もらえるもんは、ぜんぶもろとけ』いう人が、ホンマ多い気がしますわ。
『手助けするなら全部やってくれ』というのもそう。障害者のため、すべての駅のホームに可動柵つけろと要求してみたり。で、お金が足りないとわかると全部やめてしまう。それやったら、まずは急行が通過する駅だけにつけたらええやん。物事は何でも、真ん中らへんにしとかんと。
“改札に一番近い階段をスロープにしてくれ”とゴネる人もいる。確かにスロープは必要やけど、一番近い階段をスロープにしてくれとゴネるんは、おかしな話やと思うけどな。回り道してでも、ちゃんと改札まで行けるスロープがあればええやん。障害者にも甘えの構造があるんですわ。
傍で聞いとったら、びっくりするようなことを言うてまっせ。障害者は電車賃をタダにせえ、介添え人のもタダにせえ……もっとひどいのは、視覚障害者にはパソコンをタダで配布せえ、とかね。そんなもん、目の見える家族もおるんやから、その人が使ったらボロ儲けですやん(苦笑)」
健常者でも障害者でも、自分の事情ばかりで他人には無関心ということか。
「退院後はしばらく車椅子生活なんですけど、これも勉強になりましたわ。ボクら白杖を持って歩く者にとっては有難いばかりの点字ブロックやけど、車椅子で上を通ると、めちゃくちゃ揺れるんです。
はっきりいうて、腹具合の悪いときには通れまへん(笑い)。車椅子に乗ってはる人らには、身体の弱いお年寄りも多いですわな。それが点字ブロックのせいで、あんなに揺れてまうなんてね。
ところが視覚障害者は、とにかく点字ブロックを敷けとしかいわん。これはやっぱりあきまへん。どっちかの都合だけに合わせるんやなくて、お互いに使いやすいもんでないと。せやからこの場合なら、車椅子の揺れを軽減できるような点字ブロックを開発しましょう、といわにゃあ」
●文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)
※週刊ポスト2012年7月20・27日号