4月から始まった「反原発」を掲げる「首相官邸包囲デモ」は、日を追うごとに参加者が増え続けた。オランダ・アムステルダム大学教授で、20年以上にわたる日本政治研究で知られるカレル・ヴァン・ウォルフレン氏は、この展開を1年前に予言していた。氏は、政治に対する怒りが「普通の日本人」を突き動かすことになったと分析している。
ウォルフレン氏が指摘する「普通の日本人」の変化は、今回のデモが「アジサイ革命」と呼ばれるようになったことからも読み取れる。
チュニジアの「ジャスミン革命(2010~2011年)」やグルジアの「バラ革命(2003年)」、キルギスの「チューリップ革命(2005年)」など世界各地で起きた民主化革命になぞらえた表現であると同時に、「今回の自然発生的なデモは、一つひとつの小さな花が集まって大きな房をつくるアジサイに似ている」(デモ参加者)ことから、この呼び名はツイッターやフェイスブックで広がった。
デモに初めて参加した都内の主婦は、「野田さんは自分の責任で原発を動かすといっているけど、自分や子供の安全をあの人に預けられるわけないでしょ。難しいことはわからないけど、信用できない政治家には任せられない」と憤る。
20代サラリーマンは、「仕事帰りに偶然通りかかった」という理由でデモに参加した。
「野次馬根性で思わずついていったけど、参加者が叫んでいることは頷ける内容が多い。デモというと右翼や左翼の活動家のような人とか、労働組合が仕切っているという印象を持っていたけど、今回は僕みたいな人も多くて“押しつけられてる感”がなかった」
かつての安保闘争ではデモに参加する学生としない学生ははっきり分かれ、後者は政治に無関心な「ノンポリ」と呼ばれたが、その中には組織化されていく運動を敬遠して離れていく者も多く含まれている。だが、今回の官邸包囲デモの「ほどよいユルさ」(前出・20代サラリーマン)は、“現代のノンポリ層”が積極的に参加できる理由の一つになっているようだ。
実際、官邸包囲デモはある意味で“無秩序”だった。「大飯原発の再稼働反対」を叫ぶ者が多数を占めつつも、「消費税を増税するな」「マニフェストを守れ」「オスプレイ配備阻止」を唱えるプラカードも散見される。
ウォルフレン氏はいう。「デモのテーマは様々だが、共通しているのは“国民の手に政治を取り戻す”と掲げた民主党政権にことごとく裏切られたフラストレーションです。それが多くの日本人が共有している思いなのでしょう」
※週刊ポスト2012年7月20・27日号