JALは赤字路線を廃止して「事業そのものを縮小すること」で利益が出る体質に転換し、V字回復した。しかし再上場するからには、コスト削減を主体とした「稲盛改革」に続く「成長シナリオ」を示さなければならないと、大前研一氏は指摘する。以下は、大前氏の解説だ。
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経営再建中のJAL(日本航空)が東京証券取引所に上場を申請し、審査が順調に進めば、9月19日に再上場の見込みとなった。2010年1月に会社更生法の適用を申請して上場廃止になってから約2年8か月で株式市場にスピード復帰することになる。
たしかにJALの業績は絶好調だ。営業利益は2011年3月期が1884億円、2012年3月期2049億円と2年連続で過去最高を更新した。無給で会長に就任して経営再建にあたった稲盛和夫氏(現在は名誉会長)が、従業員の3割に相当する1万6000人の削減、赤字路線の廃止、燃費が悪いB747など航空機の売却、グループ内に4社あった機体整備会社の統廃合など、これまで社内の人間にはできなかった大規模なリストラを断行して徹底的にコストを削減した成果である。短期間で経営改革を成し遂げた稲盛氏の手腕は、素晴らしいの一言だ。
ただし、今後もJALが好決算を持続できるかといえば、甚だ疑問である。なぜなら、まず過去最高益の中身が、航空機の資産価値見直しで特例により減価償却費が減少したことや、利益が出ても経営破綻時に発生した多額の赤字(繰越欠損金)で相殺できるため当面は法人税を支払わなくて済むなど、会社更生法適用に伴う一時的な要因が大きいからである。
また、経営破綻前の2008年度と直近の2011年度のコスト構造を比較すると、事業費は約1兆7000億円から約8500億円に、販売費・一般管理費も約3000億円から約1500億円に半減している。
だが、売上高も1兆9500億円から1兆2000億円へと4割も減少し、旅客数(国際線と国内線の有償旅客数)も、2008年度の5285万人から2011年度の3581万人に3割以上減少している。つまり、基本的にJALは赤字路線を廃止して「事業そのものを縮小すること」で利益が出る体質に転換し、V字回復したわけである。
しかし再上場するからには、コスト削減を主体とした「稲盛改革」に続く「成長シナリオ」を示さなければならない。すでに削るほうは限界まで削ってしまったので、これからコスト削減効果を生かして反転攻勢に出るためには、売り上げを増やす必要がある。
では、売り上げを増やして成長するためにはどうすればよいのか? 稲盛改革の逆を行く「路線を増やす」「残っている路線で便数を増やす」のどちらかしか方法はない。
※週刊ポスト2012年7月20・27日号