昨年、香川県が「うどん県」に“改名”したことは大きな話題となった。さらに高松駅までも「さぬき高松うどん」駅と名乗る。特産物を全面に押し出すのは地域活性化の常道だが、名前まで変更する衝撃度は高い。他にどんな地域名の変更が考えられるだろうか。大人力コラムニストの石原壮一郎氏が、「さぬき高松うどん駅」に地方を活性化する大人の智恵を説く。
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日本の各地には、たくさんのおいしいものや素晴らしい場所があります。それぞれの地方を活性化させることが、日本を活性化させる近道に他なりません。明日の日本をたくましく切り開いていくヒントになりそうなのが、讃岐うどんで知られる香川県の試みです。
去年の秋に観光協会が「香川県は『うどん県』に改名しました」と発表。その流れで、JR四国の高松駅も「さぬき高松うどん駅」を名乗っています。さらに、7月11日の「めんの日」から、高松駅限定で「『さぬき高松うどん駅』記念入場券」の販売を開始。「釜玉うどん」「ぶっかけうどん」など、うどんをモチーフにした5種類のデザインがあり、価格は160円。それぞれ1万枚限定で売り切れ次第終了とか。
じつに楽しい試みです。さあ、ほかの地域も香川県に続きましょう。大きいところで、たとえば大阪駅は「ナニワ大阪たこ焼き駅」、名古屋駅は「尾張名古屋きしめん駅」、博多駅は「福岡博多明太子駅」でしょうか。水戸駅は「常陸水戸納豆駅」にして、納豆の香り付きや、いっそのこと食べられる入場券を売り出したら、話題になるに違いありません。
駅だけでなく県や市の名前も、大阪市が「たこ焼き市」を名乗ったら、日本中にかなりの衝撃を与えます。とりあえず世間に衝撃を与えて話題になることが大好きな橋下市長に、ぜひご検討いただきたいもの。必ずや、大阪復興の切り札となるでしょう。
真剣な話をしているときに私情をはさんで恐縮ですけど、自分の故郷の三重県についても考えてみたいと思います。私が生まれた松阪市の名産は、何といっても牛肉。シンプルに「松阪牛駅」にして、発車のベルは「モ~~」という牛の鳴き声、駅員さんのアナウンスも「1番線に列車が入りますモ~」「電車、遅れましてもウシわけありません。ウッシッシ」としてくれたら、全国から少なくとも鉄道ファンは殺到すること間違いなし!
お隣の伊勢市の名物と言えば、江戸時代から伊勢神宮の参拝客に愛されてきた伊勢うどん。太くてやわらかい麺に黒いツユを少しかけて、よくからませて食べます。伊勢市駅は、法則に当てはめると「伊勢伊勢市伊勢うどん駅」ですけど、ややこしいので「伊勢うどん駅」でいいことにしましょう。讃岐うどんとは対照的な食感ですが、初めて食べた人はそのやわらかでやさしいおいしさに激しい衝撃を受け、それまでの「うどんはコシが大事」という偏った思い込みから解き放たれ、ひとまわり太い大人になれます。
すいません、話がそれました。地方を活性化する話でしたね。しょせん香川県の二番煎じと言ってしまえばそれまでですけど、日本を元気にするためですから細かいことを気にする必要はありません。香川県だって、うどんのような太く長い心で許してくれるはず。お住まいの街や故郷の駅が改名するならどんな名前がいいか、一度、じっくり考えてみてはいかがでしょうか。活性化はさておき、魅力を再発見することにはつながるはずです。