火曜夜のNHKドラマとしてハマる人はハマった『はつ恋』。人気の秘密を作家で『五感のチカラ』著者の山下柚実氏が分析する。
* * *
7月17日火曜日にいよいよ完結するNHKドラマ10『はつ恋』。世の男性は気付いていないかもしれませんが、このドラマはお茶の間の女たちの話題をさらいました。
スタート時6.6%だった視聴率。回を重ねるごとにじりじりと上昇。7.1%→8.3%→8.9%→9.3%。この勢いだと、最終回は2桁を突破するのでは? 数字の変化は視聴者の揺るがぬ「支持」を示していました。
「誰にも邪魔されたくないから、夫がいない時に録画で見てどっぷり浸っている」という声もたくさん聞かれ、日本版「冬ソナ」との指摘もあがるほど。中でも大注目されたのが、主役の木村佳乃さん(36)。
「これまで見たこともない表情」「自然さがすごい」「迫真に迫る」と、木村佳乃ファンがにわかに増殖。「女優としてあまり好きではなかったが、今回の演技力には脱帽」という声も。
木村さんといえば、ジャニーズの東山紀之氏(45)と結婚し子どもを生んだかと思ったら、速攻でドラマ復帰。しかし今回、演じた緑という主役は、一筋縄ではいかない難しい役所。突然初恋の人と再会し、愛する夫と子どもと彼との間で、少しずつ心を引き裂かれていく緑。どんなに冷静に抑えても、母・妻より一人の女へと揺れていき、とうとう夫を裏切って……。
細い肩を震わせ、髪を乱し、涙がポロポロ伝う。初恋の人への思い、その辛さと甘さに、ただ身をよじる姿。演技には妙な過剰さも不自然さもない。「もし同じ条件に置かれたら、きっと自分もああなってしまうだろう」と、多くの視聴者を説得してしまう力があった。
いわば、役を「演じる」というよりも、「その役を生きている」ような木村さんの迫力に、多くの人が打たれたのです。木村さんの、役者としての迫力を生んだ原点とは何?
「前はまつげエクステをしていた木村佳乃さんだが、エクステとかしないほうが断然美しい」という意見にも共感が多々寄せられています。役になりきって、捨て身でぶつかる役者・木村さんの、いわば「すっぴんぶり」が視聴者の胸に刺さったのだとしたら……。
最近、何かとアナウンサーや芸能人の「すっぴん」が話題になっていますが、木村さんの演技は「化粧をほとんどしない」という意味での「すっぴん」度を、はるかに超えていました。
ごまかさない、隠さない、全身全霊でぶつかる。
この時代、多くの人がどこかで求めている「すっぴん」姿。それこそが、「はつ恋」がお茶の間の話題をさらった、本当の理由ではないでしょうか。
教育委員会、電力会社、政治家。みんな真実をウソで厚塗りし、ウソを塗りたくっている。そんな時代に、「すっぴん」の剛速球が多くの人の胸に突き刺さるという構図。たかがテレビドラマ。でも、時に、社会や時代を映すシャープな「鏡」になるのだ、と納得しました。