栃木県宇都宮市と聞いて誰もが思い浮かべるのが「餃子の街」。しかし昨年、ついに世帯当たり購入額で静岡県浜松市に日本一の座を明け渡した。危機感を募らせた宇都宮市が繰り広げる餃子キャンペーンが凄まじい。面白うてどこか哀しい餃子狂想曲を、食に詳しい編集・ライターの松浦達也が紹介する。
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「餃子バトル」が思いもよらぬ展開を見せている。ことの経緯はこうだ。2012年1月31日に発表された総務省の家計調査で「2011年の餃子の世帯あたり購入額日本一」で浜松市がトップの座を奪取し、「ギョーザの町」宇都宮は2位に陥落した。このことがよほどショックだったのか、翌2月1日の地元紙「下野新聞」では1面と4面の2面を割いて、「15年間守り続けてきた「日本一」の座から陥落」などと報じ、地元にとっての衝撃の大きさを伺わせた。
3月の調査でも浜松、京都、熊本に次ぐ4位となり、さらに危機感は高まった。4月には宇都宮市の商工・観光関係者による「宇都宮市餃子消費量日本一奪還推進委員会」が結成された。5月に市内の有力企業、約100社による決起集会が行われ、6月には「1日だけの餃子祭り」と題して、14店舗が出店しての味比べイベントを行った。現在も市内のスーパー10数軒で持ち帰り餃子の販促キャンペーンが行なわれている。
さらにアツイのがWebでの展開だ。下野新聞社のサイト内に「宇都宮餃子日本一奪還計画~為すべきことは、ただひとつ。食って、食って、食いまくれ!」というWebページが立ち上がった。トップページには毎月の「世帯当たり購入額餃子ランキング」がデカデカと掲げられ、「速報 宇都宮、背水の陣~浜松が独走の勢い」など危機感を煽る見出しが立てられている。
Webページ上では、ほかにも「永世伝道師」としてタレントの山田邦子が「日本一奪還推進委員」に加わり、応援メッセージを発信。さらに「宮の天狗様」というキャラクターを作り出し、Web上で「デジタル絵本」を展開している。「日本一からの陥落のショックで自慢の鼻がぽっきりと折れ曲がる」「宇都宮は日本一の餃子の街だと口走ると、嘘をついた天狗様の鼻はみるみるうちに長く伸び続けた」など、Webならではの自虐的な展開が満載だ。
もっとも首位を独走中の浜松もその足元を着々とかためている。月次調査で一時は宇都宮に逆転を許したものの、3月以降は1位の座を譲らず、現時点での年間1位は変わらず。7月14、15、16日の3日間、浜名湖サービスエリア(SA)に、市内の有名餃子店を集めて、「B級グルメ浜松餃子祭り」を開催しており、スタンプを集めるとSA内の飲食店で1500円以下のメニューが無料になるスタンプラリーも実施中だという。
家計調査は、スーパーやコンビニで焼き上がりの餃子を購入した数字だけが反映されるもので、餃子専門店での持ち帰り餃子や冷凍餃子、家で餃子を作るときのひき肉や野菜などの売上は反映されない。餃子を重要な観光資源だと捉える地元にとっては、死活問題なのだろう。もっとも「観光客」である僕としては、どこが1位だろうと、ウマい餃子を食べさせてくれる店に行くだけの話、なのだけれど。