従軍慰安婦問題が再燃するなど冷え込む日韓関係だが、その原因の一つが、韓国側がことあるごとに「反日カード」をもち出してくることだ。そのとばっちりが日韓の防衛協力にも及んできている。産経新聞ソウル駐在特別記者の黒田勝弘氏が報告する。
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日韓が防衛協力の一環として進めてきた「軍事秘密情報保護協定」問題が大騒ぎになっている。双方が締結で合意し、4月には当局者間で仮署名までしていたのに、韓国側の都合で締結が流れた。
「北の脅威」を前に日米韓の協力体制強化は必須なのに、日本とはイヤだというのだ。マスコミや野党陣営は日本に支配された過去の歴史を思い出し、日本が軍事的に韓国にかかわるのは困るといって「反日キャンペーン」を展開している。
北朝鮮の突然の武力侵攻で始まった朝鮮戦争は、南端に追い詰められた韓国が国連軍(主力は米軍)の支援で辛うじて盛り返した。北朝鮮の背後には国境を接した中ソの支援があった。あの時、米軍参戦と日本の後方支援が無ければ韓国は滅亡していただろう。
韓国では朝鮮戦争(1950~1953年)が勃発した6月を「護国の月」といい、戦争回顧など関連行事が毎年、大々的に行なわれるが、その「護国の6月」なのに韓国世論は朝鮮戦争の教訓に顔をそむけ、迂遠な歴史(大過去?)を持ち出し「反日情緒」に浸っていた。
今回の協定は、両国が協力過程で交換する軍事関連情報を第三国に流出しないよう取り決めるもの。これがないとお互い安心して情報交換ができない。そしてどんな情報を提供するかはその国の判断による。
日本はすでに米、仏、豪、NATOなどと締結しているが、韓国は日本よりはるかに多い24か国と結んでいる。その中には朝鮮戦争時の“旧敵”といっていいロシアまで含まれている。
なのに日本とは困るというのだ。国際事情と国際常識にはそれなりに通じている軍や外交当局は当然、積極推進でやってきたが、締結目前で反日世論の壁にぶつかってしまった。野党陣営にとって反日は政府・与党揺さぶりの格好のネタだ。
韓国政治で反日は、昔から相手攻撃のもっともおいしいカードである。「いまだ過去を反省していない(と韓国では常時、虚偽キャンペーンが展開されている)日本のような国と軍事協定を結んでいいのか!」と言いがかりを付けられると、とたんに政府・与党は腰砕けだ。
※SAPIO2012年8月1・8日号