スズキのインド子会社「マルチ・スズキ」のマネサール工場(ハリヤナ州)で起きた現地従業員ら約3000人による暴動は、日本人幹部ら死傷者70人以上を出す大惨事となった。
同工場はいまだ自動車の生産停止中で、損害額は日本円にして1日11億円を超えるという。
暴動の引き金となったのは、工場内における労使間の口論。現場監督者の男性が従業員に対してインドの身分制度カーストに基づく差別的な発言をしたことから暴力行為に発展した――との見方が強い。
実はこのカースト制度、インド人とビジネスをする際には“火種”になることが多いという。日本企業のインド進出を支援するコンサルタントが話す。
「インド人は他の新興国に比べて優秀でよく働くといわれていますが、同じ仕事をしているにもかかわらず他人よりも給料が安いと、『自分がカーストで低いところにあるから差別されているのでは?』と誤解を生みやすい。カーストに配慮した労使間の信頼関係が築けなければ、すぐにストライキを起こされてしまうお国柄なのです」
逆に、身分が高いインド人ばかり雇ったからといっても、油断はできない。
「日本企業が採用するインド人は英語ができるなど知的レベルが高く、そういう人たちはカーストの上位に入っていることも多い。でも、それだけ権利意識が強いために、例えば職場でご飯を食べても後片付けをしなかったり、コピーは自分の仕事ではないと断わったりする。能力と賃金に見合った仕事しかしないので、結局は日本人の責任者が尻拭いをするハメになるんです」(在印日系企業幹部)
外務省のまとめでは、1200社以上の日系企業がインド進出を果たしている(2010年10月時点)。中でもスズキは1981年にインド政府との合弁会社「マルチ・ウドヨグ」を設立するなど、早くからインド市場に目を付けた企業として知られている。
「すでに30年以上もインドで生産活動を続けているスズキだけに、いまさらインド人の階級意識の高さを知らなかったはずはないでしょうが、日本人が海外で働く場合には現地の国民感情を無視するとうまくいかないということを、もっと理解すべきだと思います」(前出・コンサルタント)