夏はやはりビールの季節。グラスに注がれた黄金色の液体と白い泡、想像するだけで喉が鳴る。ところが今年のビール市場は「黒ビール」が順調なのだという。他のビールとなにがどう違うのか。食に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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梅雨が開けた。ビールの季節、本格到来である。今年、2012年の上半期(1~6月)のビール出荷が、昨年同期比2%増で6年ぶりに対前年比プラスに。発泡酒や第3のビールを合わせたビール類全体でも0.4%増と3年ぶりの前年超えだ。
今年、その市場をけん引するのが「黒」だという。アサヒビールが4月に投入した「アサヒスーパードライ ドライブラック」、サッポロビールが3月に発売した第3のビールの黒版、「麦とホップ<黒>」、キリンビールの「キリン一番搾り スタウト」といった「黒」が軒並み、販売目標を上方修正したり、対前年比で売上を数倍に伸ばすなど、絶好調の様相を呈している。
「黒」のブームは数年おきに訪れる。近いところでは、2007年にサントリーが「ザ・プレミアム・モルツ<黒>」を、キリンが「一番搾り スタウト」を発売した。9年前の2003年には、サッポロビールが「ヱビス・ザ・ブラック」が一大ブームを巻き起こした。
その「黒」の特徴を一言で言えば「しっかりとしながらも、どこかやわらかい味わい」だ。一般に黒ビールはその色から来るイメージからか、「苦味」のあるイメージが強い。だが実際に飲んでみると、味わいの深さは感じられても、決して苦味ばかりが先行した味わいではない。むしろ甘味すら感じられる。
味わいの元は、高温で焦がした麦芽由来の「カラメル香」や「ロースト香」にある。一般的な黄金色のビールは、麦芽を焦げ色がつかない程度の温度でローストする。一方、「黒」は麦芽を高温でローストをかけることで、強めに焦がす。焦げた麦芽を用いることで、独特の甘みのある味わいと苦味、そしてあの色が生まれるのだ。「黒」だからと言って苦味ばかりが先行するわけではない。真っ黒な見かけに比して、やわらかい味わいのベースはここにある。
当然ながらすべての「黒」が同じ味わいではない。高温で焦がすと言ってもそれぞれ「焦げ」の異なる麦芽を独自の製法・配合でオリジナルの味わいを演出していて、それぞれに独自の味わいがある。
ちなみに「黒」に合わせるつまみは、揚げ物やローストした肉やナッツなど、やはり多少の「焦げ」が入るものが合う。マンガ『BAR レモン・ハート』ではカマンベールチーズのフライがおすすめされていた。少し変わったところでは、ビター系のチョコレートなどもいい。
だが何よりも、まずグラスに並々と注がれた「黒」をゴクリとやって喉を潤したいところだ。