「こちらは日本の海上保安庁である。我が国の領海に入ることのないよう、警告する」――巡視船の呼びかけに、沈黙する中国船。すると、艦橋の電光掲示板に、中国語、英語、日本語で文字が現われる。
「ここは中国の管轄する海域だ。これは通常のパトロールである。釣魚島を含む島々は、中国の領土だ」
今、尖閣諸島周辺の海では、こんなやりとりが頻繁に行なわれている。ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、彼らの狙いは、「尖閣」だけにとどまらないと警鐘を鳴らす。
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中国は自らの軍事力はあくまでも自衛、国防のためのものだと主張し、「先制攻撃はしない」と言います。しかし、2008年の米国の国防報告では、その意味は「先に攻撃されるのをただ待つことではない」と分析しています。
中国は、他国の「政治的言動」や「経済的言動」が中国の国益を侵す場合、それらが単なる言葉であっても「先制攻撃とみなす」としています。どんな発言を攻撃とみなすかは中国の判断に基づきます。つまり、いつでも核を含めた事実上の先制攻撃をする可能性があるということです。
領土拡張のために中国が主張していることもまた、嘘にまみれています。尖閣諸島も南シナ海も、インドのアルナーチャル・プラデーシュ州とジャンムー・カシミール州も、そしてチベットもウイグルも内モンゴルも、捏造した歴史に基づいて自国の領土領海だと主張しているにすぎません。
しかし、中国が嘘をつくのは当たり前です。なんと言っても、中国の叡智が結集された書物として知られる『孫子』には兵法として最も優れているのは、相手を騙して勝つことだとされています。中国は、この偽りだらけの姿勢を変え、軍艦を改造した漁業監視船や、EEZ内を勝手に調べる海洋調査船を派遣して周辺諸国を恫喝することを、一刻も早くやめるべきです。
とは言っても、もちろん彼らは聞く耳を持ちません。だからこそ、日本側が毅然と対処すべきなのです。
共産党一党独裁の国と、民主主義国家が戦う際に、どちらの政治体制が有利かといえば、圧倒的に一党独裁国家です。国民1人1人の命や権利を大切に考え、民意に配慮し、きちんとした手続きを必要とする民主主義国家と、国民の命など二の次、三の次の独裁国家とでは、戦略の構築にも実行にも大きな差が生じます。
例えば航空機で100人の軍人を尖閣諸島の上空からパラシュートで落下させ、半分くらいが着陸して、残りの半分が海に落ちて死んだとしても、共産党中枢部は涼しい顔をしていることでしょう。他方、それに対応する日本側は、海上自衛隊を派遣するとしても、事前の閣議決定や国会での決議などを含めて慎重な手続きが必要とされます。
一党独裁の国は何事も瞬時に決定して実行に移せます。民主主義の国ではどうしても時間がかかり、急変事態への対処は遅れがちです。とりわけ日本はこの種の作戦の迅速性や自由の幅がないのです。
こうして見るとギラギラするような野望を隠さない中国の脅威と対峙するには、相応の覚悟が必要です。日本は中国の嘘や無法に徹底的に抗議するとともに、海上保安庁はもちろん、自衛隊を増強し、憲法を改正して、自力で国を守ることのできる体制作りを一日も早く実現しなければなりません。
※SAPIO2012年8月1・8日号