在日朝鮮人の団体、朝鮮総連の約627億円に及ぶ債権回収を進める整理回収機構(RCC)は7月10日、「朝鮮総連中央本部ビル」の競売を東京地裁に申し立てた。そんななか、その実態を示す資料を本誌は独占入手した。ここに〈取り扱い注意〉と記された1枚の紙がある。
紙には学校法人宮城朝鮮学園、学校法人京都朝鮮学園、学校法人福岡朝鮮学園など、全国の朝鮮学校を運営する8つの学校法人が列挙され、法人名の後にはそれぞれの債務額が記されている。その額合計約80億円。
朝鮮総連が債権回収をすすめる朝鮮学校とは、在日朝鮮人に朝鮮語や北朝鮮の思想を教えるために設けられた各種学校である。だが、校長の人事権は朝鮮総連中央本部が握り、教育内容も北朝鮮本国の意向が反映されている。公安関係者の話。
「学校運営、特にカネの出し入れに関しても、実質、朝鮮総連が行なっている。実際、RCCが所有する朝鮮総連関係の不良債権に関しても資金調達の借入名義人に学校がなっていた事例も多い。朝鮮総連と学校が一体となって資金管理をしていたと当局は判断しています。学校は朝鮮総連によって私物化され、債務額が嵩んでいったんです」
これまでにも、朝鮮学校を舞台にした不良債権問題が表面化したことがある。東海地方にある朝鮮初中級学校のケースだ。2001年、朝鮮総連傘下のある企業の経営者が学校の土地・建物を担保として朝銀と3億円の融資契約を結び、新規事業を展開した。
しかし事業は頓挫。結局、経営者は行方をくらまして、債務は現在も焦げ付いたままだという。
「経営者に責任がありますが話を仲介した総連側にも大きな問題がある。多くの在日商工人や保護者の献金によってかろうじて維持されてきた学校が、いま存亡の危機に晒されている。総連中央部は、これまでの乱脈経営を省みるべきです」
とは関東で飲食業を営む在日実業家だ。地方の在日商工人の間では、総連中央本部への批判も珍しくない。
「朝銀破綻以後、朝鮮総連を実質的に支えたのは飲食やパチンコを営んできた全国の商工人だったが、彼らの心も総連中央部からは離れつつある。中央部の根城の総連本部ビルの競売にしても地方の在日社会では関心が低い」
別の在日商工人が続ける。
「総連本部よりもむしろ、RCCに差し押さえされている地方の支部や学校がどうなるかが心配です。競売にかけられた支部や学校を、地域の総連組織が競り落とせるかどうかはその地域の組織力にかかっている。大規模な寄付運動を展開するでしょう」
一方で、朝鮮学校への寄付に関してはこんな懸念もある。関西で外食事業を営む在日実業家の話。
「1990年代後半、関西のある朝鮮学校の債務が不良債権化したことがありました。債務者との交渉には、中央本部の肝いりで、日本に帰化した在日朝鮮人が代表の不動産業者があたった。この男は地域の在日社会に寄付金を募ることで、債務を解消すると触れ回ったが、本来の債務より大幅に上回る金額を集めた。その差額は自身の懐と中央本部に入れたと噂されましたが、その経緯は一切、寄付者には説明されませんでした」
男が在日社会をあざむくような行為を堂々とできたのは、当時総連中央本部責任副議長だった許宗萬とのコネクションがあったからだという。
「許は現在総連中央本部の議長。今後予想される朝鮮学校の競売に関しても同じ構図で怪しげな不動産業者が暗躍しないか眼を光らせています」(同)
地方の在日商工人たちにとって、総連中央本部への不信感はかくも強い。
※週刊ポスト2012年8月3日号