日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼CEOが、6月26日の株主総会で2012年3月期の役員報酬が9億8700万円だったことを明らかにすると、大きな話題になった。「高すぎる」との声もあったこの金額について、大前研一氏は「安い」という。その理由を氏が解説した。
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日産自動車のカルロス・ゴーン社長兼CEO(最高経営責任者)の2012年3月期の役員報酬は9億8700万円だった。日産の取締役9人の報酬総額18億8000万円の半分以上を占め、同時期のトヨタ自動車の取締役27人の総額9億7200万円を1人で上回った。果たして、この金額は妥当なのか? 私は「安い」と思う。
かつてゴーン社長が「リバイバルプラン」を掲げ、工場閉鎖、従業員削減、下請け半減などの大リストラによって日産の「V字回復」を成し遂げた時、私は『週刊ポスト』の連載で、コストダウンだけなら回復は一過性の現象であり、黙っていてもいいクルマが生まれる仕掛け、黙っていてもよく売る販売組織を作らなければ本当の改革とはいえない、と指摘した。
そして、それはコストカットとは全く別の経営スキルだからゴーン社長には難しいのではないか、と述べた。
ところが、ゴーン社長は私の予想に反し、スポーツカー『GT-R』やEV(電気自動車)『リーフ』など、けっこういいクルマを次々と出してきた。さらに、タイや中国の工場を強化して日本に依存しない生産体制を構築した。
その結果、この10年間はリーマン・ショックが起きた2008年度を除いて黒字を維持し、2011年度はトヨタの2835億円を上回る3414億円の純利益を計上した。ゴーン社長が就任した1999年度は6844億円の赤字だったから、業績を1兆円以上改善したわけである。
したがって、ゴーン社長には1兆円の価値があることになるので、10億円は高いどころか安すぎると思うのだ。
※週刊ポスト2012年8月3日号